「本好きの下剋上」ドラマCDアフレコレポート【中 編】(17.6.16更新)

【前 編】|【中 編】|【後 編】

音響監督さんが指定したところまでテストで流して声をもらったら、一旦操作室は話し合いに入ります。気になったところや修正点がないかどうか確認し合うのです。

担当さん「香月さん、キャラの声はいかがですか?」
私「全く問題なしです。声優さんってすごいですね。このまま進めてください」
担当さん「最初に声を作るのが一番大事なんです。これがスムーズなら、収録が進めば進むほど声優さん達はキャラに馴染んでくるので、後はどんどん良くなるだけですよ」

オーフェンのドラマCDなどで収録に立ち会った経験のある担当さんは「良いドラマCDになりそうです」と嬉しそうに教えてくれました。

國澤さん「香月先生、フランの最後の台詞はあれでいいですか? 先生はフランの怒り方にこだわりがありましたよね?」
私「あぁ、確かに最後の台詞は気になりますね。フランの怒り声は怒鳴るんじゃなくて、威圧的になっていく感じで……いっそ『!』を除けるような冷やしフランをお願いしたいです」

実は初稿の脚本に書かれていたフランは怒る時に激昂する感じの台詞になっていたので、「冷やしフラン」にしてほしいと國澤さんに修正をお願いしたのです。

こちらの話し合いをまとめて音響監督さんがブースの伊達さんに要望を伝えます。私の要望の前半部分だけだったのは、「冷やしフラン」がわかりにくいと判断されたのかもしれません。(笑)
それでも、伊達さんの威圧的なフランがきました。声優さんはすごい!

キャラのイメージや流れがある程度つかめたら、修正点を伝えて本番です。ちなみに、最初に数ページを軽く流す感じでキャラ作りする時以外に練習はありませんでした。指定されたページまでどんどん収録していくのです。

収録が終わると、また話し合いが行われます。私達が少し修正してほしいところなどを話し合っている間に、ミキサーさんはノイズをチェックして録り直すところを音響監督さんに伝えていきます。このミキサーさんもすごいですよ。ノイズはもちろん、台詞の怪しい部分なんて普通に聞いていても全くわかりませんから。
最終的に、修正点や録り直すところは全て音響監督さんが把握して、声優さんに伝えながら部分、部分で収録し直していくのです。

「○ページの2番目のローゼマインの声をください。ノイズです」
「×ページのベンノ、途中にちょっと怪しいところがありました。台詞がかぶるのでブロックでお願いしてもいいですか?」
「△ページのフェルディナンドの台詞、修正です」

そんな感じで音響監督さんが次々と指示を出せば、声優さん達はほんの一部分切り取った台詞だけをパッと前と同じテンションで演じていきます。いきなり泣いたり、怒鳴り声を出したり、前に会話の流れがあったように自然に一文だけに感情を乗せられるのです。

私「声優さんってマジすごいですね」
鈴華さん「香月さん、さっきから『すごい』しか言ってませんよ」
私「だって、マジすごいですから」

訓練をしてそういう技術を身につけた人を声優というのでしょうけれど、これ、本当にすごいです! 職人技だなぁ、と感嘆の溜息が次々に出ます。

あ、沢城さんの「いやっふぅ!」がとても可愛かったです。
あと、櫻井さんの「まったく……」がすごく好き。第三部のラストには出てこない「大変結構」をどこかに何とかしてねじ込めばよかったなんて口に出しては言いませんが、めちゃくちゃ後悔しています。新しい場面を挿入できる余裕なんてなかったんだもの。うぐぅ……。



部分、部分の録り直しが終わったら、次のシーンへ。「本好き」はシーンによってどんどんと出てくるキャラが変わるので、新しいキャラの声を確認する必要があります。次に確認しなければならないのはヴィルフリート役の藤原さんとゲオルギーネ役の中原さん。

ヴィルフリート役の藤原夏海さんは下調べの時から大丈夫だろうと思っていたし、実際に全く問題ありませんでした。ゲオルギーネと会話している時の無邪気でおバカな感じがとてもヴィルフリートらしかったです。

今回のキャストで一番意外性のあるキャスティングだったのが、中原麻衣さんのゲオルギーネ。操作室でもどのような声になるのか、注目の的でした。
中原さんのゲオルギーネが喋り出すと、「おおぉぉ」と感嘆と拍手が自然と出てきます。

鈴華さん「うわぁ、すごく良いですね。黒幕っぽさがあります」
私「優しげな声の中にある上品な嫌みったらしさが素晴らしいです」
國澤さん「言い回しはすごくいいですけれど、声が少し若くないですか?」

そんな意見をまとめて、音響監督さんが「もう少しだけ年上にしてください」と指示を出しました。ここで私は初めて「声優さんに指示を出してキャラの声を作る」という作業を見たわけですが、プロの仕事に度肝を抜かれました。その指示だけで完璧なゲオルギーネになったのです。
あんなに曖昧な指示で声を変えることが簡単にできると思わなかったので、本当に目から鱗がボロボロ落ちるような感動でした。

中原さんのゲオルギーネ、素晴らしかったです。期待してください。

その次に声のテストをしたのは、前神殿長役の伊達忠智さん、ビンデバルト役の林大地さん、カルステッド役の浜田賢二さんです。

伊達さんはフランと前神殿長の2役ですよ!!「え? ちょ、ちょっと、本当に大丈夫なんですか!?」と思ったのは私だけではないはずです。

伊達さんの前神殿長と林さんのビンデバルトが喋り出しました。伊達さんは年長者らしい芝居をしていただきましたが、神殿長の方がかなり若いように聞こえます。操作室で一致した意見に、「前神殿長、もう少し年齢を上げてください」と音響監督さんから指示が入りました。
「おおぉぉ!? 上がった! 前神殿長だ」
フランが前神殿長になったのです。驚きでしょう? 何度目かわかりませんが、声優さんはすごいのです。

林さんのビンデバルトはとても悪代官っぽくて非常によかったです。椎名様のあのイラストに合うのです。前神殿長と組んで悪いことをしそうな声で完璧です。

鈴華さん「カルステッドがカッコいいです!」

鈴華さんが興奮している通り、浜田さんのカルステッドは声だけで「カッコいいです、お父様!」と拳を握れる素敵な声でした。人を動かす声、騎士団長にピッタリです。浜田さんの声でカルステッドの男前度が3割増しましたね。間違いないです。

それから、フロレンツィア役の長谷川暖さんとエルヴィーラ役の浅野真澄さん。実は、浅野さんはアンゲリカ役として公表されているけれど、エルヴィーラ役もするのです。ちょっと年齢差が大きい2つの役に驚きました。

テストの結果、長谷川さんの声はフロレンツィアではありませんでした。人情味に溢れていて優しい母親の声だけれど、領主の第一夫人ではないのです。フロレンツィアではなくて、エーファでした。

浅野さんのエルヴィーラも少し早口できびきびした感じのできるお母さんという感じですが、貴族女性というよりは職業婦人。「できる女性」というこちらの注文には沿っているけれど、エルヴィーラお母様の喋り方ではありません。テストした2人の会話は貴族女性のお茶会というより、下町のお母さん同士の会話に聞こえました。

私「フロレンツィアの声はもう一段若くして、貴族らしい優雅さというか……」
國澤さん「そうですね。もっと柔らかくておっとりした雰囲気がほしいです」
私「エルヴィーラは年齢的にはそれくらいなんですけれど、ちょっと早口すぎます」
國澤さん「わかります。ゆっくりした口調で貴族であることを念頭に置いてもらって……」

そういう意見をまとめて音響さんが伝えます。そうしたら、次の瞬間にはできるのですよ。違和感のないフロレンツィアとエルヴィーラが。プロの技には思わず拍手してしまいますよね、ホント。

声が作れたら、本番です。音響監督さんが指定したところまで一気に収録して、終わったら話し合い。

國澤さん「ヴェローニカはもう少し貴族らしく感情を抑え気味で良いと思うのですが」
私「うーん……。いえ、やっと見つけたはずの救いの手が救いではなかったんです。我が子が自分の言葉を聞かないなんて思ってもみなかったヴェローニカの声はこれで良いと思います」

ヴェローニカ役は中根久美子さん。リヒャルダ役の方で、お年を召した女性がとてもお上手です。

修正が必要な部分を撮り終えると、次は新しい貴族キャラが次々と出てくるシーンです。シャルロッテ役の小原好美さん、リヒャルダ役の中根久美子さん、ダームエル役の田丸篤志さん、 アンゲリカ役の浅野真澄さん、ランプレヒト役の鳴海和希さん。

テストの結果、小原さんのシャルロッテの声は可愛いのですが、ローゼマインと会話をしていると、シャルロッテの方が年上に聞こえました。操作室では「もう一段幼く」で意見が一致します。

音響監督さんからの「もうちょっと幼くお願いします」という指示に小原さんは「え? これ以上幼くするんですか?」と戸惑いつつ、幼い声で台詞を口にしました。一気に幼くなりましたが、惜しい。今度は幼すぎです。

國澤さん「声のトーンはそのくらいなんですよ。言い回しがちょっと……」
私「そうそう。舌っ足らずな言い方だけ抜いてくれたら完璧ですね」

音響監督さんの指示で再度小原さんが台詞を口にした瞬間、私と鈴華さんの感想が「シャルロッテ、マジ可愛い!」で一致したことをお知らせします。

中根さんのリヒャルダは見事なおばあちゃん感で、全く問題なし。すごくリヒャルダ。このドラマCDの中にフェルディナンドを「これ、フェルディナンド坊ちゃま!」と叱り飛ばすシーンがほしかったなと思ったのは内緒です。ヴェローニカとリヒャルダで完全に分けられるところがすごいと思いました。

浅野さんのアンゲリカも強そうでOK。暴れているヴィルフリートを押さえ込んでいることが、声の微妙な揺れでわかるんですよ。感心しました。その調子でグッと押さえ込んでいてください。(笑)

鈴華さん「わぁ……。田丸さん、すごくダームエルですね」
私「うん、想像通りです」

今回のダームエルは戦うシーンが多いので、キリッとした台詞が多いです。田丸さんのダームエルは、ダームエルのくせにカッコいいので、私はできればヘタレなダームエルをもっと田丸さんの声で聞きたいと思いました。

鳴海さんのランプレヒトもイメージそのままでした。何の違和感もありません。するっとランプレヒトの声として耳に入ってきます。明るい体育会系のイケメン声という私の希望にピッタリです。

【前 編】|【中 編】|【後 編】

戻る