「本好きの下剋上」ドラマCDアフレコレポート【後 編】(17.6.22更新)

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ご学友、貴族女、貴族男などの役名がないモブやほとんど台詞のない下町家族は、その場にいる声優さんが2役、3役を演じてくださっています。当日は顔を上げてモニターを見る余裕のなかった私にはどなたが演じてくださっているのかわかりませんでしたが、後でキャスト表を見て驚きました。本当に役柄ごとに声が違うのですよ。

ご学友役は依田菜津さん。コルネリウス役の方です。第三部の時点で名前は付いていないので書きませんが、web版の読者の方ならば名前が浮かぶかも知れませんね。コルネリウス役よりも台詞が多い気がしますが、可愛い少年声です。

貴族女1が藤原夏海さん。ヴィルフリート役と兼ねるのですか!? と驚きました。同じ場面にいるのに切り替えがすごいです。

貴族男1は伊達忠智さん。フラン役、前神殿長に加えて3役目です! どの役も年齢が全然違うのですが、それに合わせて声を自在に変えられる器用な方だなと思いました。

貴族女2は依田奈津さん。依田さんもコルネリウス役、ご学友役に続いて3役目です! 声優ならば当たり前にできるのですか? 声優というお仕事に求められる技術の高さに眩暈がしますね。

貴族男2は田丸篤志さん。ダームエル役の方です。聞いている限りではダームエルと同じだとは思いませんでした。もっと年上だと思っていました。

この場面の貴族達の会話は國澤さんから「ドラマCDなので、初めて聞く方にも悪役だとわかるように」という注文がついて、悪役っぽさ増量でお届けです。確かに貴族同士の会話は地の文がないとどういう状況でどんな心情で喋っているのかわかりにくいですよね。

本番の後の話し合いではちょこちょこと台詞を変えました。聞いてもパッとわからない部分を修正したり、この部分は不要だからと削除したり……。
小説では「表記揺れ」として統一するように注意される呼び名も、何度も「ヴィルフリート兄様」が出てくると耳障りなので、「兄様」と縮めるという提案が沢城さんから出てきました。声優ならではの視点だな、と感心しました。

次のシーンで声を合わせたのが、シュティンルーク役の櫻井孝宏さんとボニファティウス役の石塚運昇さん。

櫻井さん「シュティンルークはどのような声の役ですか?」
音響さん「フェルディナンドそのままだそうです。声のトーンや言い方全てそのままで」
櫻井さん「……。え? どういう存在なんですか?」
音響さん「魔剣だそうです。フェルディナンドの声で喋る武器で、アンゲリカの……」

次の瞬間、「剣が喋るのか!?」「魔剣かよ!? ぶはっ」とブース内で謎の笑いが起こりました。そんな中、「あ、私の剣!? 私が主ですね!」とアンゲリカ役の浅野さんが得意そうに言って、更に笑いが広がっていました。

石塚さんはテストで第一声が聞こえた瞬間、操作室が「ボニファティウス!」という笑いに包まれました。全員一致でボニファティウス。もう本当に手を打って「すごい、おじい様!」と笑わずにはいられないくらいボニファティウス。もう他の方が考えられないくらいのはまり役です。ローゼマインを助けに来たところは笑わずには聞けません。

モブのヴェロー二カ派貴族役は林大地さん。ビンデバルト伯爵に加えて、ヴェローニカ派の貴族です。どちらも悪役ですが、見事に別人です。ガマガエルっぽさが全くない嫌み貴族でした。

黒ずくめ役は浜田賢二さん。役名だけ見ればモブですが、後に役名が出てくる中ボスキャラです。今の段階では名前は出しませんが、ローゼマインを襲う犯人役です。
黒ずくめがイイ声過ぎると思いました。カッコいい。「中ボスっぽい感じ」という希望だったのですが、予想以上にカッコよかったです。
布を当てているくぐもった声で、同時に滑舌良く全ての言葉がきちんと聞こえなければならないなんて……ひどい無茶ぶりだ! と思うのですが、それを「ふんふん」と聞いて「大丈夫です」でできてしまうところがすごいですよね。

最後に、沢城みゆきさんに麗乃の声を作っていただきました。麗乃は回想シーンに一言台詞があるだけですが、マインやローゼマインとは全く年齢が違いますし、転生前はそもそも別人なので声を確認する必要があるのです。

沢城さん「年齢は何歳ですか?」
音響さん「22歳。大学生だそうです」

そのやり取りだけで、沢城さんはピタッと声を合わせてきました。すごすぎると思いません? 幼いローゼマインとは全然違う麗乃の声、それなのに、物言いが同じで繋がりがあるのがわかるのですよ。台詞を聞いた時、鳥肌が立ちました。

下町家族もビックリの連続です。
ギュンター役は伊達忠智さんです。収録時はモニターを見る余裕なんてなかったので、後から、誰がどの役とどの役を兼ねていたのか見直して、ええぇぇ!? と思いました。
ギュンターは声が低くて、「もう少し若い声に」と注文を付けたのは覚えていたのですが、まさかまたもや伊達さんだったとは……。そんな感じのビックリです。マジで伊達さん、大活躍。

エーファ役は依田奈津さんです。依田さんも多すぎですよね。どこにでもひょこっといる感じです。でも、声が別人。器用な方なのか、声優さんならば誰でも持っている特技なのか……。声優さんがすごすぎてわからなくなってきました。
優しくて人情味に溢れた暖かい母親。それがコルネリウスと同じ人……うーん、すごいです。

トゥーリ役は中原麻衣さんです。ゲオルギーネとトゥーリですよ! 正反対の役柄! でも、中原さんの普段の役柄から考えると、トゥーリ役の方が想像はつきやすいかもしれませんね。中原さんのトゥーリ、もう本当に可愛い。ゲオルギーネと同じ人だとは思えません。「トゥーリ、マジ天使!」な中原さんの声をお楽しみに。



収録中は脚本をじっと見ながら声に集中するので、あまりモニターを見ていなくて声優さん達の様子がわかりませんでした。アフレコレポを書くのに、これじゃダメだ! と途中で気付いて顔を上げたのですが、自然と視線は脚本に戻ります。

モニターを見た時間は長くないのですが、とりあえずわかったことをいくつか。
沢城さんは身振り手振りが大きくて、声だけではなく演技をしていました。他の人は肩幅に足を開いて声を出している人が多いことでしょうか。マイクの位置が固定なので、背の高い方は少し屈むような格好をしている方もいました。藤原さんがヴィルフリートを演じている時の背中は、少年らしい勇ましさがあって何となく印象的でした。

あと、1つのシーンでたくさんのキャラが喋る時は入れ替わりが大変そうだな、と思いました。立ち上がって待機しなければならない時に、マイクの高さに合わせるために長身を縮めるようにそーっと動いている武内さんの様子が可愛かったです。

私達が修正点について話し合っている間、ブースの声優さん達がどのように過ごしているのかわからなかったのですが、もしかしたら読み合わせをしたり、「このシーンではどのマイクを誰が使って、どこで誰と入れ替わるのか」と打ち合わせたりしているのかな、なんて考えました。

そういえば、キャラと似ている方がキャスティングされているのかも? と思うくらい鳥海さんの雰囲気がすごくジルヴェスターでした。あれは素なのか、声を出していなくてもブースにいる間はジルヴェスターなのかわかりませんでした。

また、休憩の終わりに沢城さんが一度OKを出してくださったのですが、どなたかの「もうちょっと待ってください!」という声が入りました。慌てて大きく手を振って「待って、待って。今のなし!」と言いながら手を大きく交差させて×を作って知らせてくれた沢城さんの姿がコミック版でマインがギルド長に向かってお断りしている図と脳内でピッタリ重なり、思わず笑ってしまいました。

櫻井さんはすごく真面目な印象でしたね。黙々と脚本を読んでいる感じの姿ばかり見た気がします。あれ? でも、シュティンルークの声について話していた時は声優の皆さんと一緒に騒いでいたような気もするので、私がモニターを見ていないところでは騒いでいたのかもしれません。それとも、フェルディナンドの役柄に合わせていたのかも……?



「キャラや神様の名前がカタカナで長くて発音しにくい」と頭を抱える声優さん達が多かったこと。これは今回の収録で私が一番反省した点ですね。
 フロレンツィア→フロレンツァ
 シュツェーリア→シュツァーリア
 ゲドゥルリーヒ→ゲ、ゲドゥ……え?
という感じで、皆様、苦戦していらっしゃいました。

「本当にごめんなさい! 名前を決めた当時は書籍化予定もなかったし、ましてやドラマCD化で他人様に声を当てていただけるなんてこれっぽっちも思っていなかったんです!」

本当に操作室から平謝りしていたわけですが、新しい作品を書く時は声に出す時の読みやすさも重視したいと思いました。本当に申し訳ありません。面倒な発音、ありがとうございました。

それから、キャスティングを担当された音響監督さんの感性が素晴らしかったこともあると思いますが、声優さんがこれだけ自在に声を変えていけるなら、事前にどのような声の方なのか調べるのはあんまり意味がなかったな、と思いました。それよりも、人と人が顔を合わせてお仕事をするのですから、顔を覚えておくことの方が大事でしたね。

帰る声優さん達を見送りつつ、「この役のこういうところが素敵だった」と感想を言いたかったのですが、顔と役が一致する方が半分くらいだったため、全員に対して満足にお礼を言えなかったところが心残りでした。結果として、この長文アフレコレポで思いの丈をぶつけているわけですが……。
声優さんの顔を覚えたり、どんな声を出してほしいのか自分の中のイメージを明確にしたり、それを声優さん達に伝えられるようにまとめておいたりする必要性を強く感じました。

忙しくて原作全てに目を通せない声優さんも多いですし、「本好きの下剋上」は長くて収録部分が発売されていない状況でのアフレコです。私が声の下調べをするよりは第一部からのあらすじやキャラの性格について、もっと詳細なまとめを作っておく方が、よりよいドラマCD作りに役立ったのではないかと反省しました。

次回があれば、今回の経験を活かしていきたいと思います。貴重な経験、ありがとうございました。
キャストの皆様はもちろん、プロデューサーや音響監督さんを始めとするドラマCD制作スタッフの皆様、脚本家の國澤真理子様、担当さんを始めとするTOブックスの皆様、それから、忙しい中でアフレコの漫画レポを描いてくださる鈴華様に感謝を。

2017年5月某日
香月美夜

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