「本好きの下剋上」ドラマCDアフレコレポート【前 編】(18.3.6更新)

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一月某日、ドラマCD第二弾のアフレコに行きました。以前と同じスタジオでしたが、私は前回と同じく旦那の案内がなければ到着できませんでしたし、鈴華さんは今日も緊張しているようです。

「あぁ、香月さんの全く緊張してない姿を見るとやっぱり安心しますね」
「まぁ、前回でアフレコの流れがわかったので緊張は全くしてませんよ。けど、アフレコレポは二回目だからあまり書くことがないかもって心配ですね」
「そんなこと言って、香月さんのことだからまた長くなるんでしょう?」
「目新しいことがなければ短いですよ」

私は長くなることはないだろうと思っていたんですけれどね。鈴華さんが正解でした。書き終わってみれば前回より少し長くなっていましたよ。不思議。



スタジオが同じなので迷いなく操作室へ入ります。音響監督さんやミキサーさんが準備で忙しそうに動いていました。アフレコが始まるまでやることのない私達はソファに座って待機です。

「おはようございます」
「國澤さん、私、とうとう名刺を作ったんです!」

到着した國澤さんに、私は早速名刺を渡しました。前回の反省を生かして新しく名刺を作ってきたのです。危うく持ってくるのを忘れそうだったのですが、そんなことは黙っていればわかりません。

「鈴華さんは新しい名刺、作ったんですか?」
「作ったんですけど、今日か明日に届くんですよね。……あぁ、もーっ! 香月さんには絶対にネタにされると思ったんですよ」
「せっかくなのでネタにさせていただきます」

鈴華さんとそんなやり取りをしているところに國澤さんの冷静な指摘が入りました。

「香月先生とはすでに一度お会いしているので、名刺をいただくと不思議な感じがしますね」

そうか。初めて会う人だけに渡すのか。新しい名刺を作ったのが嬉しくて、今までポイポイ渡してたんだけど……。まぁ、いいや。私が渡したかっただけだから。

スタッフが揃ったらプロデューサーさんと音響監督さんから今日のアフレコについての説明が始まります。

「今回のドラマCDはメールでお知らせした通り、抜きで収録します。抜きは、声優さん達の時間が合わせられないため、その時間に集合できた人だけで収録していくことです」
「抜きで収録というのが、声優さん達の予定が合わなくて全員揃わないってことはわかったのですが……」

メールに載っていた方を抜いて収録するのか、名前の載っている方だけで収録するのかわかりませんでした。鈴華さんも同じようにわからなかったようです。音響監督さんは私達の疑問に笑顔で答えてくれました。

「名前のある方だけで録っていきます」

序盤が四人で、中盤が最も多く、終盤は一人ずつ収録する方が四人という流れだそうです。

序盤戦に集合したのはベンノ役の武内駿輔さん、トゥーリ役の中原麻衣さん、アンゲリカ役の浅野真澄さん、リヒャルダ役の中根久美子さんです。前回は十八人が入っていたブースに四人なので、ものすごく部屋が広く見えました。マイクも一人で一つ使えるので、自分の身長に合わせて調節できます。

最初のシーンに出てくる人はベンノ役の武内駿輔さんだけしかいません。ルッツもローゼマインも不在の中、ベンノが一人で怒ったりツッコミを入れたりします。ローゼマインの頭をグリグリするシーンなんて、一人で怒りっぱなし。
前回はローゼマインの「いたい、いたい~」という悲鳴との掛け合いだったので何も思いませんでしたが、ローゼマインの声が入るくらいの長さを一人で不自然にならないようにずっと声だけでグリグリし続けるのです。これね、本当にすごいですよ。私だったら「これ、いつまですればいいの?」って途中で質問したくなりますから。頭の中で相手の声が浮かんでいるのでしょうか。

鈴華さん「一人でって、戸惑わないんですかね?」
私「当然のようにできてますよね」

抜きの収録では相手がいなくても一言、一言で感情がパッと切り替わります。これを声優さん達は全員できるんです。マジ職人技。改めて思い知りました。声優さんってすごい。

でも、前回と違って台詞や場面が飛び飛びのせいで、ドラマCDの完成形を脳内で思い浮かべることができません。「ちょっと、この穴を埋めて! 誰かマインとルッツを連れてきて!」という気分でベンノの収録を聞いていました。最終的にどんな形になるのかわからないという点では読者様と同じように仕上がりが楽しみです。

今回、武内さんはベンノだけではなく貴族院の開始を告げる教師役も演じてくださいました。めちゃくちゃカッコ良く貴族院が始まりますよ。

ベンノの声は前回と同じなのでサラッと進んでいきましたが、トゥーリ役の中原麻衣さんは前回のドラマCDでトゥーリとして一言しか喋っていない上、年齢が三歳くらい変わっているので声を作るところから始まりました。……とは言っても、特に問題なくあっさり進んだのですが。

鈴華さん「ゲオルギーネと同じ人なんですよね。ハァ、すごい」
私「トゥーリ、マジ可愛いですよね」

中原さんは前回のゲオルギーネとは全く違う声でトゥーリを演じてくださっています。もうね、可愛い。本当にトゥーリが可愛いです。

鈴華さん「台本を読んで、ここでこういう展開を入れるか~って思いました」
國澤さん「香月先生にあらすじと主要な台詞をいただいたので、間に入れたんです」
私「これね、読者様も気になっているエピソードみたいで短編リクエストはずっとあったんです。だから、今しかないって思ったんですよ」

このドラマCD用にトゥーリ視点のSS「王族からの依頼品」を新しく書き下ろしたのですが、声が付くとニヤニヤしちゃいますね。ぜひ楽しみにしていてくださいませ。

そうそう。可愛いといえば、図書館の魔術具の片割れであるヴァイスの声も中原さんです。「ひめさま」って可愛く言ってくれます。実際にシュバルツやヴァイスが図書館にいたら通いたくなるなぁって思わせてくれますよ。
それから、音楽の先生の片方も演じてくださいました。

リヒャルダ役の中根久美子さんも前回と変わらず素敵に演じてくださいました。リヒャルダは前回より出番が多いのではないでしょうか。

鈴華さん「リヒャルダ、いいですね」
私「ピッタリですよね」

ローゼマインを気遣ったり叱ったりする、優しくて厳しい役。今回の台詞では、ユストクスに注意するリヒャルダがひそかにお気に入りです。

そして、中根さんは音楽の先生の片方を演じてくださっています。中根さんと中原さんが演じる音楽の先生方の会話をお楽しみください。どちらが中原さんで中根さんか、私は台本を見なければわかりませんが、旦那は声を聞けばわかるそうです。それはそれですごいと思います。

浅野さんは前回に引き続きアンゲリカ役です。アンゲリカの収録は楽しかったですね。

私「P13アンゲリカの三つめの台詞、淡々とした感じじゃなくて、もっとこう胸を張っているような、得意そうな……」
鈴華さん「もっとドヤ顔ってことですね」
私「そう、ドヤ顔です」

ドヤ顔アンゲリカ、いただきました。個人的にどうしても入れてほしいアンゲリカの台詞を入れてもらったので、私はとても満足しています。

浅野さんは前回に引き続き、エルヴィーラ役も演じてくださっています。エルヴィーラがローゼマインを諭すシーンは好きなので、しんみりとした気分で聞いていました。素敵なお母様で、アンゲリカと同じ人が演じているとは思えませんね。

そうそう、浅野さんでちょっと面白かったエピソードは、音響監督さんが前ライゼガング老を女性だと勘違いしていて浅野さんに兼ね役をお願いしていたことでしょうか。

私「ん? 前ライゼガング伯爵は男性ですよ」
鈴華さん「今にも倒れそうなおじいちゃんですよね?」
私「そうです。よぼよぼのおじいちゃんです」

私と鈴華さんが顔を見合わせつつ指摘すると、音響監督さんは急いでブースの浅野さんに伝えます。

音響監督さん「すみません、前ライゼガング伯爵は男性だったようです。後で男の方にお願いします」
浅野さん「えぇ!? めちゃくちゃ練習したのに。……まぁ、でも、正直なところ、ちょっとホッとしました」

浅野さんの反応が可愛くて操作室では微笑ましい感じの笑いが起こりました。でも、前ライゼガング伯爵の台詞はたった一言で、ガヤ(ざわざわとした背後で聞こえるような集団の声)に近いものです。それなのに浅野さんは一生懸命に前ライゼガング伯爵の練習をしてくださったのです。なんかちょっと感動というか、ジーンとしましたね。

この四人で台本の最後まで通して収録をしたのですが、キャラがほとんどいないのでサクサク進みます。けれど、掛け合いはほとんどないままに序盤戦は終了しました。
あっという間に入れ替えタイムです。この入れ替えの時間帯が最も多くの人数が集まるので序盤戦+中盤戦の声優さん達で集合写真を撮り、序盤戦の声優さん達には帰る前に読者様へのプレゼント用色紙にサインしていただきます。

バタバタとした雰囲気で廊下がごった返しているので、わたし達は邪魔にならないように操作室でおとなしく待機。ポッキーをポリポリ食べつつ待ちます。収録中は台本と声に集中するので、お茶やお菓子を口に入れる余裕があまりないんですよね。

「お疲れ様でした」
「お疲れ様です。とても良い声でした。ありがとうございました」

序盤戦の四人を見送った後は中盤戦の始まりです。



中盤戦は一番たくさんの人が集まる時間帯です。最初に音響監督さんが前ライゼガング老の役を誰にお願いするのか決めることになりました。

「突然の無茶ぶりですが、浅野さんにお願いしていた前ライゼガング老が男性だったため、ここにいる方にお願いしたいと思います」
「そんなのないです」

ローゼマイン役の沢城みゆきさんがキャスト表を見ながらきっぱりと言い切ったのですが、その物言いと様子がとてもマイン。「マインだ」と操作室に笑いが起こりました。音響監督さんも少し笑いながら「一言ですが、あるんです」と返します。

さてさて、誰が前ライゼガング伯爵を演じることになるのでしょうか。前回、前神殿長役で驚きの老人ボイスを披露してくれた伊達さんか、それとも、新しいキャストのどなたかでしょうか。ユストクス役の間島淳司さん、マルク役の菊地達弘さん、オットー役の浜田洋平さんと男性キャストは前回より増えています。

「櫻井さん、お願いします」

なんと音響監督さんの無茶ぶりを受けたのは、フェルディナンド役の櫻井孝宏さんでした。

「は!?」

櫻井さんだけではなく、操作室で私と鈴華さんも同じような声を出してしまいました。だって、あの涼しげな美声のフェルディナンドと、はるか高みへの階段に片足をかけているような前ライゼガング伯爵ですよ。「は?」って、なりますよね?

沢城さん「よぼよぼのおじいさん……。志村みたいな感じですか?」
櫻井さん「そっちにはいきません(苦笑)」

どんなおじいちゃんになるのか楽しみにしていましたが、いい感じによぼよぼのおじいさんでした。ガヤの中にいる一言なので、皆様は聞き取ることができるでしょうか。私はドラマCDになってしまうと聞き分けられない自信があります。

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