「本好きの下剋上」ドラマCDアフレコレポート【後 編】

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「お疲れさん。休憩です」

2章の収録が終わったら音響監督さんの指示で15分くらいの休憩です。この時間に声優さん達は軽食を摂ったり、トイレへ行ったり、午後は早めに出て次のスタジオへ向かう方はサインを書いたり、それぞれ息抜きの時間を過ごします。

私はコントロールルームでお菓子をモシャモシャ。鈴華さんが何やらクリアファイルを出してきます。

「香月さん、これを確認してもらって良いですか?」
「あ。コミックスの表紙!」

鈴華さんに声をかけられて、ウキウキでコミックス『第二部』一巻の表紙イラストを確認します。

「良いですね。あれ? でも、これ、本が書見台から外れてませんか? マインには本が重くて持てませんよ?」
「あ~……。そこを忠実にすると、マインの顔半分が帯に隠れるんです」
「それはダメですね」

さすがに表紙で主人公の顔が見えないのはまずい。リアルに寄せられない事情はそれぞれあるということです。リピート アフター ミー! 表紙はイメージ!



休憩を終えたら3章のテストから始まります。

「トラウゴットの声はどうですか?」
「自信のなくなっている感じが良いですね」

トラウゴット役は内田雄馬さん。ハルトムートと同じ人とは思えません。鼻っ柱をへし折られたトラウゴットと聖女賛美するハルトムートをこなすんですよ。声優さんは本当に皆すごいですよね。

騎士見習い役は岡井カツノリさんです。魔獣を退治する中に登場するモブ騎士です。
3章になると、もうほとんどのキャラは出揃っているので、新キャラは少ないですね。

「えーと、『塞げば』を『ふせげば』と読んでいますよね?『ふさげば』でお願いします」
「△ページですが、『どこへ行くのですか?』を『どちらへいらっしゃるのですか?』に修正してください」

いくつかの修正依頼を出して、テストから本番へ。
ここでローデリヒ役の遠藤さんは「欲したために」のアクセントが上手く言えずに宿題になりました。後で居残り収録とし、収録を先へ進めるのです。



3章が終わったら保護者三人組が合流。この時点で結構時間が押していました。すぐに次のスタジオへ移動しなければならない方がいるため、写真撮影を先に行います。大御所三人組と声優さん達が挨拶を交わす中、スタッフさん達によってブースの中に椅子が運び込まれて準備が整えられていきます。私達は邪魔にならないようにコントロールルームからその様子を見ているだけです。

「香月さんは一緒に撮らなくて良いんですか?」
「私は掲載NGなので」

集合写真はハンネローレ役の諸星すみれさん以外全員いました。ハンネローレはここでも間が悪かったようです。(笑)



写真撮影が終わったらエピローグを先にするのか、保護者三人組のシーンを先に収録するのか、スタッフさん達が話し合います。

「時間がギリギリの方が何人もいるのでエピローグを先にできませんか?」
「うーん、ベテラン勢も時間押してるからな。こっちから」

どのように収録するのか決めるのは音響監督さんです。問答している時間も惜しいので、プロローグから保護者三人組の場面を次々と録っていくことになりました。
フェルディナンド役は速水奨さんです。

「私はアニメのアフレコで声を聞いているので、特に意見はないです」
「この声で凄まれたら泣きますよ。軽く流せるローゼマインの精神が強すぎません?」

鈴華さんの評価に笑ってしまいますが、何回聞いても腰砕けになる感じの深い声なんです。フェルディナンドはアニメで最初の方は出番がほとんどないですからね。ちょっとの台詞でも印象に残る速水さんの声は素晴らしいと思います。

ジルヴェスター役は井上和彦さんです。領主という役柄のせいか、威厳ありすぎの声になっていました。

「ジルヴェスターはもうちょっと若い感じがいいかな?」
「若いっていうか、チャラい感じですよね?」
「領主だけど、ジルヴェスターにそこまで威厳はありませんからね。もうちょっと年齢を下げる感じでお願いします」

カルステッド役は森川智之さん。私は優しい感じの声を出す役しか聞いたことがないので、どんなカルステッドになるのかと思っていたのですが、カルステッドがマジでカルステッドでした。

「うわ、めちゃくちゃ騎士団長じゃないですか! すごい! カッコいい! 強そう!」
「他の二人との馴染みも良いですね。……っていうか、この保護者三人組は威圧感というか、存在感がすごいですよ。この中で演じる井口さんは大変じゃないですか?」
「でも、この保護者三人組をローゼマインが振り回すんですよ。想像するだけで面白いと思いません?」

保護者三人組に貴族院からの木札を運んでくる側近役は岡井カツノリさんです。その報告書を見ながら頭を抱える保護者三人組。

「見送りなどの外での会話と、三人だけの執務室での会話に公私を付けてください。えーと、執務室の中では昔馴染み感というか、馴れ合っている感じが欲しいです」

それだけですぐにできるのがすごいですよね。さすがベテラン勢。
そんなベテラン勢にもカタカナの長い名前は鬼門だったようです。言い間違えて「あ~……」ってなっていました。あと、「なささげ。な、ささ……。ハァ、一回で言える気がしねぇ」って待合室でぼやいていたという報告が届いています(笑)。

でも、テストをして、漢字の読み方やアクセントを少し指摘するだけで、感情の乗せ方や表現の指摘や修正はほとんどなく、収録はサクサクと終わりました。
合流して約30分。保護者三人組の収録は終了です。マジ早い。終えると、三人はすぐさま次の現場へ向かいました。お忙しい中、ありがとうございます。



嵐のようにやってきて、嵐のように去って行くベテラン勢を見送り、エピローグの収録です。
注意してほしかったのは、名捧げに立ち会うハルトムートが主役のローデリヒを食わないということ。これは原作を書く時にも気を付けていることなのですが、ちょっと油断するとハルトムートが前に出てくるのですよ(笑)。
注意していたおかげか、特に何事もなく終わりましたね。

エピローグが終わったら、怒濤の移動ラッシュです。次のスタジオへ移動する方々が次々とスタジオを出て行きます。
この後、ガヤを収録するのですが、結構多くの人が帰ったため、側近達が揃って挨拶や返事をするところがややボリューム少なめです。どうするのかと思ったら、同じ場面を二、三回収録して重ねることで多くの人数がいるようにするそうです。音響さん達のテクニックが唸りますね。

「はい、終了。お疲れさんでした」

音響監督さんが「終了」と言ったところで、ローデリヒの遠藤さんがおずおずと手を上げました。

「あの、宿題って言われて後回しにした部分は……?」
「あ! あったな」

音響監督さーん!(笑)
他に忘れていたところがないか、プロデューサーや担当さんが脚本を調べ始めます。
ローデリヒの宿題の収録はさっさと終わり、これで本当の終わりかと思いきや、竹内想さんが手を上げました。

「ターニスベファレンの声は録らないんですか?」
「ザンツェも……」

そう、竹内想さんはなんとターニスベファレン役で、遠藤さんがザンツェ役なのです。キャスト表を見た時に驚きました。声優さんって吠えるのか、と。

「……ん~……。先生、ターニスベファレンやザンツェってどんな感じ?」
「ターニスベファレンは犬とか狼系でしたよね? ザンツェが猫っぽいの?」
「そうです。ターニスベファレンが人間の二、三倍の大きさの狼っぽい魔獣で、ザンツェは大人の膝くらいの大きさの猫っぽい魔獣です」

鈴華さんの言葉に私が更に詳細を話すと、音響監督さんが少し考え込見ました。

「魔獣はSE処理にするか。お疲れさん」
「わかりました。お疲れさまです」

遠藤さんや竹内さんは納得していますが、私は内心で「のおおぉぉ!」って大絶叫ですよ。だって、ターニスベファレンの竹内さんがどんなふうに咆哮してくれるのか、めっちゃ楽しみにしていたのに! SE処理になるなんて……。しょんぼりへにょん。

その流れでSE処理についてミキサーさん達と話をしていた音響監督さんがふと思い出したように質問しました。

「そういえば、先生。オルドナンツってどんなの? 白い鳥にマティアスが乗ってくる感じだと結構大きい?」

……え? マティアスが乗ってくる?

「ほら、効果音的にさ。どのくらい、ぶわっさー! ってなるかなって……」

両手を広げて、ぶわっさー! って羽ばたき表現をしている音響監督さんを見た瞬間、私の脳裏には白い巨大な鳥に乗って突っ込んでくる真剣な顔のマティアスが浮かびました。あんまりな絵面に思わず笑ってしまいましたが、違います。

「いやいや、それ、オルドナンツと騎獣が混じってますよ。オルドナンツは声を録音して飛ばす魔術具で、手のひらサイズくらいの白い鳥です」
「やっべ。聞いといてよかった。オルドナンツの効果音がぶわっさー! ってなるところだった」
「危なかったですね。絶対にぶわっさー! だと思ってました」
どうやらミキサーさん達も騎獣と混ざった感じで考えていたようです。ぶわっさー! って手を動かしながら音響監督さんに同意して大袈裟に安堵しています。

私と鈴華さんは、巨大オルドナンツに乗って飛んでくる貴族の面々を想像して大笑い。だって、巨大オルドナンツで「ローゼマインの様子はどうだ!?」って一日に何回もフェルディナンドのところへぶわっさー! って飛んでくるボニファティウスおじい様を想像してみてください。笑うでしょ?

「あ、先生。騎獣はぶわっさー! で良いんですか?」
「ぶわっさー! でOKです」

効果音にも注目ですね。
ドラマCD第三弾のできあがりが楽しみです。



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