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最後まで録り終わったら、大人数がいる内にガヤの収録です。側近達が集まって返事するところや襲撃を受ける者達などの声を録っていきます。
今回のガヤ収録で一番印象的だったのは、神官長室の側仕え達からフェルディナンドへ送られる祝福ですね。
「先生、神官長室の側仕えって何人? 男女比は?」
「五人で、全て男性です」
「んじゃ、男五人でよろしく」
音響監督さんの指示で顔を見合わせつつ、五人の男性が前に出てきます。二人が声やタイミングを合わせるのも難しいのに、五人で綺麗に声を揃えて面倒臭い神様の名前が全て連なる挨拶を言えるのか……。
神様の読み方やアクセントの付け方について話し合う男性陣。前回のドラマCDやアニメのアフレコで神様の名前を口にしている井口さんや速水さんが教えています。テストで五人の出だしをどう揃えるのか、テンポの確認などをしてから本番です。
緊張感に包まれつつ声優さんのブースを見守る中、スタート。
なんと一発OK! すごい!
スタッフの間で拍手が沸き起こった瞬間、「すみません、ちょっと言い間違えました! エーヴィリーベとエーベリーベ」という声が……。
「言わなきゃわからなかったのに……。んじゃ、もう一回」
音響監督さんが苦笑してそう言い、やり直しました。声優さん達は自分の失敗に厳しいです。
全属性の祝福に驚くガヤも収録します。「全属性だと?」「初めて見た」とざわざわするガヤの声を聴いていると、台本に足りない存在を発見しました。
「このガヤの中に陶酔するハルトムートが欲しいです」
「……あとでハルトムートだけ録るか」
ハルトムート役の内田雄馬さんは後からなので、この場にはいません。後からハルトムートの声を入れることを決めたら終了です。
「お疲れさまでした」
午前から集まってくださっている方は解散です。
次々と帰って行く声優さん達に声をかけていきます。今回から参加のユストクス役の関俊彦さんとエックハルト役の小林裕介さんにも挨拶をしました。今後もよろしくお願いします、ということで……。
その中で印象的だったのはコルネリウス役の山下誠一郎さん。
「先生。コルネリウスも、コルネリウスもアニメに呼んでください」
手をパタパタさせながらアピールする様子が非常に可愛かったです。でも、残念。コルネリウスの出番はまだまだ先。書籍に出番を増やしてほしいならばともかく、アニメに関しては私の一存で何とかなることではありません。
「アニメがこの先も続くことを祈ってください。出番が来た時は呼びます(笑)」
コルネリウスが出るまでアニメが続きますように。
ガランとしたスタジオに入れ替わりで入ってきたのは、午後収録の三人です。
カルステッド&イマヌエル&ユルゲンシュミット国王(以後ツェント)役の森川智之さん、ハルトムート役の内田雄馬さん、シャルロッテ&シュバルツ&ヒルデブラント役の本渡楓さん。
早速テストして森川さんのイマヌエルとツェント、本渡さんのヒルデブラントの声を作っていきます。
私「イマヌエルはもうちょっとねっとり感が欲しいです」
鈴華さん「あぁ、いやらしい感じが必要ですよね」
國澤さん「ハルトムートみたいに?」
鈴華さん「いえ。ハルトムートとイマヌエルは違うんです。熱の方向というか、狂信している対象が」
私「あ~、ローゼマイン至上主義のハルトムートと中央神殿のためならローゼマインを道具の一種として扱うイマヌエルって感じで違いますよね」
ハルトムートとイマヌエルの違いに対する熱弁はともかく、ねっとり感のあるイマヌエルができました。
鈴華さん「ツェントがおじいちゃん過ぎません?」
私「年齢的にはカルステッドと同じくらいなんですよね」
國澤さん「でも、同じくらいの年齢となれば、声に変化を付けるのが難しいですよ。どうしますか?」
そんな心配をしていたのに、できちゃうんですよ。森川さん、すごい! 威厳のあるツェントに仕上がりました。
私「ヒルデブラントは問題なしです」
鈴華さん「少年声も可愛いですね」
本渡さんのヒルデブラントはテストにOKを出して終了です。優秀。
声ができたらテストです。音響監督さんが「じゃあ、○ページから×ページまで通しで」と指示を出しました。パラパラと台本を見ながらその範囲を確認する三人。見終わった内田さんが小さく笑いました。
「全部森川さんですね」
「え? 全部俺?」
他のキャラがいないせいで、その部分は全部森川さんのターン。(笑)
この収録はすごかったですよ。悔しそうなイマヌエルの直後に、カルステッドとして騎士団長らしく学生達を評価し、ツェントとして挨拶をするのですから。よく混乱しないなと思いました。
「次は×ページから△ページまで」
人数が少ないので、場面が飛び飛びになりながら収録が進みます。次々と声を変えていく森川さんの台詞に「あ……」とシャルロッテ役の本渡さんの声が被りました。
「森川さん、ストップ。シャルロッテが先です」
「すみません。シャルロッテの存在を忘れてました」
まぁ、しょうがないよね。そう思ってしまうくらいに台詞が飛び飛びなのです。
「本渡さんと森川さんの出番はここまでだな。お疲れさん」
音響監督さんの声に二人が「お疲れさまでした」と答えて帰り支度を始めます。そこで音響監督さんが「あ、森川さんはちょっと待って」と森川さんを引き留めました。
「ガヤの収録があるかも」
本渡さんが帰ると、出番が遅くて、しばらく待機していたハルトムート役の内田雄馬さんがマイクの前に立ちます。テスト開始。
鈴華さん「ハルトムートが足りなくないですか?」
私「気持ち悪さが足りませんね」
私達の意見を音響監督さんが伝えると、内田さんは困った感じになりました。
「いや、でも、ハルトムートが気持ち悪いのはローゼマイン様の前だけじゃないですか。神官長相手には真面目な感じというか、そこまで気持ち悪くないですよね?」
内田さんは正しいです。とてもハルトムートを理解しています。ナチュラルにローゼマインが「様」付けになっているところもポイント高いです。素晴らしい。
國澤さん「でも、パッと聞いた時にハルトムートとわからないと……」
鈴華さん「すぐにハルトムートとわかる気持ち悪さは欲しいですね」
私「ちょっとでいいのでハルトムート成分を足してください」
そんな面倒な注文に応えてくださる内田さん。
鈴華さん「ハルトムート、入りました!」
私「バッチリです」
その調子でローゼマインの全属性祝福を褒め称えるハルトムートも演じていただきました。ハルトムートらしい気持ち悪さが全開です。ガヤの中に入っても目立つに違いないと確信を持てる陶酔感。マジでハルトムート。
「はい、お疲れさん。終了です」
今回のドラマCDもハルトムートが最後のおいしいところをかっさらっていきました。……と思っていたら、森川さんの最後のぼやきが……。
「なぁ、俺が残された意味って?」
最終的に台本を確認したところ、ガヤ収録が必要なかった森川さんはハルトムートの陶酔台詞を聞くためだけに残っていたという結果に……。(笑)
お疲れさまです。
こうして、今回のドラマCDの収録も無事に終わりました。
皆様、ありがとうございました。
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