香月美夜「本好きの下剋上」ドラマCD6アフレコレポート【前 編】
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2021年某日、アフレコに行きました。
前回に引き続き今回も私は公共交通機関を使わずに車でスタジオへ移動しました。今回は担当さんではなく、旦那の送迎です。旦那はリモートワークなのでどこにいても仕事ができる+井上喜久子さんの大ファンなので。(笑)
今回のアフレコも三日に分けて行われました。基本的には一人ずつの収録です。絶対に掛け合いだった方が良い場合は、二人で収録もします。それでも、最大で二人。その時は真ん中に透明のビニールカーテンが引かれます。
声優さん達が入れ替わる度に必ずスタジオ内を換気&消毒します。去年のドラマCD5のアフレコ時は緊急事態宣言が終わりに近付き、収録が少しずつ再開され始めた頃でした。そのため、「あれをして、これをして……。あ、これも!」みたいにルーティンを確認することもありましたが、あれから一年近く経っているので完全に慣れた手順になっていましたね。
去年は緊急事態宣言が終わる頃に、今回は三回目の緊急事態宣言前にアフレコを終えられたことを考えると、『本好きの下剋上』のドラマCDは結構ギリギリをすり抜けているイメージです。
コントロールルームも最大人数が何人までという基準ができていました。機械が並ぶ前方に音響監督さん、録音さん、録音助手さん。真ん中に置かれた椅子に担当さん、旦那。後方のテーブルがあるところに鈴華さん、私、脚本の國澤さんが並びます。
前回のドラマCD収録では出席する日が合わなかったので、鈴華さんと会うのもめちゃくちゃ久し振りでした。約一年半前の謝恩会以来です。
「お久し振りです、鈴華さん。お元気でした?」
「元気は元気ですけど、気分転換に旅行とか行けないのが辛いです」
TOブックスの企画製作部に新しい方が入ったので名刺交換です。アニメ『本好きの下剋上』の仕事で知り合って、TOブックスに転職した方がいることは担当さんから聞いていましたが、ご挨拶は初めてです。
「今日は名刺を持ってないです! すみません」と鈴華さん。
ドラマCDのアフレコはもう見慣れたスタッフばかりですからね。油断するのも無理はありません。
私は自分のカバンの中を探したものの、名刺入れが見つからず。入れたと思ったのにおかしいと首を傾げつつ、財布に入れておいた予備の名刺を出して差し出しました。
「香月さん、持っていたんですか?」
「そんな意外そうに言わないでくださいよ。いざという時のために一枚は財布に入れておくと良いですよって鈴華さんが教えてくれたじゃないですか」
「私が言ったのか……」
ドヤッ! と鈴華さんに胸を張っていたら、「あの、名刺が二枚重なってますが……」と言う声が……。
……あああぁぁぁ! こんなはずでは!
「ふぅ、これはもうアフレコレポのネタにするしかありませんね」
「止めましょう。読者も飽きてますよ」
「むしろ、名刺を交換するだけなのに、こんなに何回も色んなパターンで失敗できることに感心されるレベル」
旦那は今すぐ黙るべきだと思います。
《アフレコ1日目》
○井上和彦さん
井上和彦さんが演じてくださるのは、ジルヴェスター、ジギスヴァルトの側近です。
今回は領主会議の様子が入るため、今までのドラマCDに比べるとジルヴェスターのセリフが多めなんですよね。王族とローゼマインに振り回されるアウブ・エーレンフェストですが、領主らしいセリフも多くてカッコいいです。
「○ページ、もう少し苦笑してほしいです。公私の私を強くする感じで」
「×ページ、こっちは苦々しさを出してください」
「△ページ、もう少し親父の見守り感がほしいです」
アフレコは軽く練習で音響監督さんに指定された範囲の脚本を読んで、スタッフが指摘や感想を出して、音響監督さんがそれをまとめて声優さんに伝え、本番という流れで行われます。
要望を伝えたら、それにすぐ対応できるのがプロ。
何度見てもすごい技術です。
ジギスヴァルトの側近は一言だけ。
ちょっと老けた感じでお願いしました。
30分とかからずに収録終了です。早い、上手い、素晴らしい。
キャスティング担当さんが「アニメ第三期ではジルヴェスターが登場するので、アニメのアフレコもよろしくお願いします」とご挨拶しているのを聞いて、「あ、そうか。ジルヴェスターってアニメでは初登場になるのか」と何となく感慨深い気持ちになりました。ドラマCDでずっと聞いていたので「はじめまして」の気分ではないんですよね。
第五部と第二部では時間軸が違いすぎるので、きっと井上和彦さんも第二部のお忍びジルヴェスターに戸惑うのではないでしょうか。(笑)
○井上喜久子さん
井上喜久子さんが演じてくださるのは、エルヴィーラ、エグランティーヌです。
キャストが決定した時に旦那が大興奮して、アニメで井上喜久子さんの演じた役をいくつか見せてくれました。おっとりほんわりとした声の役が多くて、個人的にはエルヴィーラが予想外のキャスティングでした。どんな感じのエルヴィーラになるのかドキドキワクワクです。
「あ、井上喜久子さんがいらっしゃったみたいですね。収録前にご挨拶に行きますか?」
「行きます」
私より先に答える旦那。でも、別に旦那が声優さんに挨拶したり会話したりするわけじゃないんですよ。私のマネージャーのような顔で背後に立ってニコニコしているだけ。
「確か、井上さんは永遠の16歳とか……」
「17歳です」
即座にツッコミを入れる旦那。目がマジ。担当さんは「さすが詳しいですね」と苦笑しつつ立ち上がります。挨拶に行くと、キャスティング担当さんが井上喜久子さんを呼んでくださいました。
「こちらがエルヴィーラ役の井上喜久子さんです。……えーと、永遠の18歳だっけ?」
「17歳です!」
キャスティング担当さんの紹介に即座にご本人のツッコミが入りました。これって持ちネタなんでしょうか。(笑)
まぁ、そのツッコミもプンプンって感じで可愛いんですよ。本当に年齢不詳ですね。
旦那に「実際は何歳なんだろうね?」と軽い気持ちで尋ねたら、「17歳」と返ってきました。
……うん。知ってた。
井上さんは見た目通りにおっとりほんわりとした方で、「この方、素でエグランティーヌができそう」と思いました。原作を読んでくださったようで、「エルヴィーラのシーンを読んだ時は感動で泣きました。精一杯演じますが、何か意見があればビシバシおっしゃってくださいね」と言ってくださいました。
マネージャーさんによると、「感動が先に来て、指示より先に泣き声になりそう。ちゃんと演じられるか本人が一番心配していましたよ」とのこと。嬉しいですね。
収録開始……と同時に、録音助手さんが「待ってください」とストップをかけました。
「換気用の扇風機が止まってません!」
「え? マジ?」
「あ、ホントだ!」
音響監督さん達も気付かなかった微かな音に気付いた録音助手さんの耳にビックリ。
ノイズなどに敏感なプロ。すごい。
扇風機が完全に止まったことを確認してから収録開始。
井上さんの第一声にコントロールルームでは拍手喝采。
まさに、エルヴィーラ! 芯のある貴族女性らしい声なんですよ。
騎士団長の妻として厳しいところもあるけれど情が深い。それでいて、フィリーネとダームエルを恋物語のネタにしようと妄想するところはとってもお茶目さん。収録時に笑ってしまうくらいに妄想中のエルヴィーラはノリノリでした。
「○ページ、平民がへんみんに聞こえます」
「この陶酔感からの切り替え、見事ですね」
「×ページ、『そののち』じゃなくて『そのあと』でお願いします」
キャスティング担当さんは「エルヴィーラは絶対に井上喜久子さんが合う」と思っていたようで、ずっと前からエルヴィーラには井上喜久子さんにお願いしたいと考えていたそうです。見事なキャスティングでした。
今回の山場となる母子のシーンはテストで泣けるくらいによかったです。
次はエグランティーヌです。
さすが永遠の17歳。エグランティーヌ役をしても全く違和感がありません。
悪意の欠片もないおっとりほんわりとした声で「協力してくださるでしょう?」と言うお姫様になりました。最高ですね。素晴らしかったです。
そうそう、井上さんからえびせんのお土産をいただきました。コントロールルームで配って、残った分は私が(旦那が?)いただいて持ち帰りました。おいしかったです。
○お昼ご飯
焼肉弁当もしくはハンバーグ弁当を食べる皆様。私は体調が万全とは言えないため、そのお弁当は食べられず、旦那にコンビニで私が食べられそうな物を見繕ってきてもらいました。おにぎり、おいしい。もしゃもしゃ。
ご飯が終わったら鈴華さんと私は順番にサイン色紙へサインをしていきます。
「私もサイン色紙が欲しいです」
鈴華さんの声に私も「わかります。欲しいですよね」と深く頷きました。
「突然言われても困るでしょうし、別に今じゃなくて良いんですよ。私は最終巻のドラマCDの時に欲しいです」
「最後もドラマCDを付けるのって決定してるんですか?」
ビックリしている鈴華さんに「いえ、決まってませんけど」とパタパタ手を振ります。
「でも、ここからラストまでの間に突然売り上げが落ちて『本好きの下剋上』が打ち切りとか、ドラマCDだけが全く売れなくなったとか、TOブックスが倒産とかしない限りは付くんじゃないですか?」
「ちょっと、香月先生! 不吉なことを言わないでくださいよっ!」
「よっぽどのことがなければ大丈夫って安心させるつもりだったんですけど……」
完全書き下ろしの長編小説ならば先の売り上げ予想なんて全くできないかもしれませんが、web版連載当時のブックマークや感想の増え方と書籍の売り上げの伸びが今までそれなりにリンクしているし、アニメ第三期も控えているし、第五部半ばでいきなり打ち切りになることはないと思います。
それに第五部Ⅶ以降の怒濤の展開では声付きで聞きたいところがたくさんあります。あのイベントもこのイベントもどのシーンに声を付けるのか國澤さんが取捨選択に頭を抱えるだろうし、今までドラマCDを購入してくださっている読者の方々は楽しみにしている方が絶対に多いと思うんですよね。
「最悪の場合は私が会社を作って出せばいいし……」
「その時は雇ってくださいね」
「担当さんはTOブックスが潰れないように頑張ってください」
○関俊彦さん
関俊彦さんが演じてくださるのはラオブルート、ギーベ・キルンベルガ、テロリストです。
最初はラオブルート。
以前にも演じてくださっているので、声作りは特に問題なく進みました。
「○ページのセリフはもうちょっといかつい感じがいいかな」
セリフ数も少ないので、サクッと終了。
次はギーベ・キルンベルガ。
回想でちらっと入るだけなんですけれどね、ギーベ・キルンベルガ、カッコ良すぎ!
イラストが付いたことで渋くてカッコいい度がギュンと上昇しましたが、今回声が付いたことで更に渋くてカッコよくなりました。
ギーベ・キルンベルガの素敵さの上昇が止まらない。
ラオブルートもギーベ・キルンベルガもおっさん声なのに、全く違うんですよね。
声優さんはすごいです。
最後はテロリスト。こちらも回想シーンでチラッと入るだけです。
ローゼマイン二年生の表彰式に乱入してきたテロリスト。
吠えるように叫んで終了です。
以上を10分以内に終えました。
お見事。
○寺崎裕香さん
寺崎裕香さんが演じてくださるのは、ヴィルフリート、参列者3です。
今回のドラマCDではヴィルフリートが感情を爆発させるわけですが、イイ感じの反抗期に仕上がりました。
こちらから言うことは特になし。
ヴィルフリートの心からの叫びをお楽しみに。
キャスティング担当さんによると、寺崎さんは今回のドラマCDで、最初からきちんとヴィルフリートを演じたい気持ちがとても強まったそうです。
「ヴィルフリートってアニメにはいつ出てくるんですか? 今回のドラマCDのところまでアニメが続いてほしいです」と言われたと教えてくださいました。
……そうなると良いけれど、アニメ第三期にはまだヴィルフリートの出番がないので、今回のドラマCDのところはずいぶん先の話になりそうですね。(笑)
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