|【前 編】|【中 編】|【後 編】|
2021年某日、ドラマCD7のアフレコが行われました。今までのドラマCDと違って、なんと今回は2枚組!普段はドラマCDの山場になるシーンを私が指定し、そのシーンに上手く繋がるように國澤さんが必要な要素をピックアップしてくださって脚本にしてくださいます。今回も同じように必要な要素を挙げていたのですが……。
「ドラマCD7の山場はフェルディナンドの救出とランツェナーヴェとの戦いですよね。そこをメインに、第五部Ⅶの要素を適宜入れていく感じでしょうか。フェルディナンドが窮地に陥ってレティーツィアが絶望するところは外せませんし、やっぱりローゼマインが成長するところも必要ですよね? メスティオノーラの書を授かるところもないと、話が繋がらないし……あれ? CD一枚にそんなに入ります?」
削れる要素が少ないけれど大丈夫かな? と思いつつ、質問メールを担当さん経由で國澤さんへ。
「読み返したところ、尺が厳しいことが判明しました。2枚組のドラマCDをつけることを提案します」
そんな感じで「削れないならCDを増やせばいいんじゃない?」と2枚組にすることはすぐに決まったのですが、作業は今までの倍くらい大変でした。当然なのですが、脚本の確認作業も倍。アフレコに必要な時間も倍なんですよ!私は届いた脚本を一度で確認しきれなくて、息切れしていました。でも、その甲斐あって重要なシーンにたっぷり尺が取れたと思います。
もう一点、今までのドラマCDと違う点があります。なんと今回はリモートアフレコ!最初は全員が揃って行っていたドラマCDの収録も、コロナ禍で人数制限ができ、とうとうリモートアフレコですよ。家でiPadとステレオを繋げて聞くのです。設定などの準備は全て旦那がしてくれました。旦那がいなかったら、私、リモートアフレコに参加できなかったと思います。ありがとう!
さて、初めてのリモートアフレコです。私だけではなく鈴華さんもリモート参加、担当さんや國澤さんはスタジオにいらっしゃいます。リモートだとどうしても気軽にお喋りという雰囲気にはならないんですよね。
「スタジオでの会話や休憩時間の小ネタが拾いにくいと思うんですけれど、アフレコレポを書けるくらいのネタが集まるでしょうか?」「コントロールルームの音も、スタジオの音も聞こえるようになっているので、頑張って拾ってください」
担当さんは応援してくれましたが、スピーカーを通すのと顔が見えないせいでスタッフさん達の会話は誰が喋っているのか一瞬わからないことが多かったです。あと休憩中は雑音が多くて、会話が聞き取りにくく小ネタがあまり拾えませんでした。残念。コントロールルームがそんな感じなので、スタジオの声優さん達の声がどんな感じになるのか心配でした。でも、そちらは分厚い防音扉を閉めることもあり、きちんと聞こえるのでアフレコは問題なく進みました。
今回のアフレコは四日に分けて行われました。一日目は井口裕香さん、井上和彦さん、速水奨さん、三瓶由布子さん、梅原裕一郎さんです。
○井口裕香さん(前編)
井口裕香さんは主役のローゼマイン役です。今回は2枚組ですし、セリフが本当に多いので本日収録するのは前編だけで、後編は後日に別収録することになっています。
タイトルコールから収録が始まったわけですが、ここで突然問題が発生。
「2枚組になったけどタイトルに前編とか後編とか入れる?」
音響監督さんの質問にいきなり「え?」となる原作陣。とはいえ、私は2枚組のドラマCDを作ったことがある担当さんと國澤さんに判断を丸投げ。
「他作品の時ってどうでした? 國澤さん、覚えてます?」「……もう覚えてないですね。2枚組ですし、入れておいた方がいいんじゃないですか?」
前編か後編かわかるように入れることになりました。2枚組の時はタイトルコールに前編後編を入れる。私、覚えた。今後、2枚組になるかどうかはわかりませんが。
井口さんはアニメやボイスブックで『本好きの下剋上』の収録に完全に慣れている方なので、一言二言だけ声の確認をするとテストなしで最初から録っていきます。修正部分があると、そこだけ後で修正する感じでさくさく進みます。
「○ページ、後半はセリフではなくナレーションにした方が良いのでは?」「×ページ、授業中なのに返事が元気すぎません?」「△ページの祝詞、全ての生命(せいめい)ではなく(いのち)でお願いします」
今回の発音の難関は「レティーツィア」だったようです。皆様が苦労していましたが、井口さんも苦戦していました。「ツィア」が言い難いみたいで、「ツィア、ツィア、ツィア……レティーツィア。よし!」と発音の練習をしていました。
このドラマCD7で井口さんが一番大変だったのは、ローゼマインの成長を声でどう表現するかというものでした。これに関してはきちんとテストして声を作っていくことになります。まずは井口さんに成長ローゼマインを演じていただきました。
「うーん、年齢を上げるのは間違いないんですけれど、これだとあまり変化がないですね。もうちょっと思い切った変化が必要じゃないですか? どういう方向にします? おとなしい感じですか?」
國澤さんの言葉に私も「うーん」と考え込みました。
「変化は必要でしょうけど、成長しても大して言動は変わらないからおとなしくはないですよ」「そこまで変化をつけるのもおかしいかもしれませんね」「同一人物であることが伝わらないのも困りません?」
そんな感じのやり取りを音響監督さんが上手くまとめて井口さんにお願いしてくれます。でも、やっぱりちょっと違うんですよね。
「モノローグはテンションを上げずに演じてもらいますか?」「井口さんが思っているよりは大人のイメージが欲しいですね」「最初の、第一声は大人っぽさが欲しいです。あとはともかく……」
成長した場面だけは変わった感じが欲しいのですが、あまり別人感が出るのも違う。説明するのも難しいけれど、こちらが説明できないのだから演じる井口さんも難しい。
「テンションが上がって声を張ると、どうしても高くなりますね。幼く聞こえる」「それは仕方がないんじゃないですか。ローゼマインだし、こんなものですよ」
同一のキャラであることを保持した状態で明らかな変化がわかるように、という面倒臭い注文にも応えてくださいました。ありがとうございます。
○井上和彦さん
井上和彦さんはジルヴェスター役です。井口さんが単独の収録を終えたところで、途中から井上さんが参加しました。前編にはローゼマインとジルヴェスターの会話が少し長めにあるので、二人の掛け合いを優先し、そこから最後まで収録していきます。
「×ページ、『すり替えられた』が重複するので、片方を削除しませんか?」「○ページ、『なかろう』を『ないだろう』に修正してください」「△ページ、空(そら)ではなく(から)の魔石ですね」「○ページ、目処(めど)と読んでください」
領主らしいジルヴェスターが実にカッコいいです。アニメのアフレコとは少し雰囲気が違います。ジルヴェスターも成長したなと思いますね。
前編の最後まで終わると、ローゼマイン役の井口さんが退場。その後は井上さんが残って、前編後編を含め、ジルヴェスターのセリフの収録をしていきます。
こちらはあっさりと終了。さすがベテランですね。早い。
ジルヴェスターの収録が終わったら、モブのセリフにも協力していただきました。そのモブ役も意外と大変。
「……これ、ジルヴェスターに聞こえません?」「うーん、ちょっとジルヴェスターと出番が近すぎるな。別の人に頼むか」
私は音響監督さん達の会話を聞きながら「へぇ、そうなんだ」と思うだけです。ちょっと声優さんが声を変えると区別できないので、私は収録で自分の耳を全く当てにしていません。そんな私がどうしてアフレコに参加するのか。音響監督さん達のこういう質問に答えるためにいるんですよ。
「ここは何歳くらい?」「貴族院の奉納式は学生なので若くしてください」「え? 若く?」
「先生、このアーレンスバッハの貴族って何歳くらい?」「年配ですね。成人前後の娘がいる年齢だったらOKです。三十代後半から四十代を想定してください」
「ここに集まっている騎士達って何人くらい?」「他のことをしている人もいるけれど、ダンケルフェルガーだけで約100名。それ以外にローゼマインの護衛騎士やアーレンスバッハの騎士もいるので、この時点で150名くらいはいると思います。ランツェナーヴェの戦いは比較的若いモブやガヤが欲しいですね」
そう、ガヤの収録が大変なんですよ。貴族院の奉納式も戦いのシーンも人数が多すぎるせいです。
「あっちもこっちも大人数か……」「ガヤをどこかから集めないと難しいですね」
ごめんなさい。この後の戦いシーンっていつも背景に人が多くなるんです。今後のドラマCDでもガヤ収録の問題が出てくると思いますが、よろしくお願いします。
井上さんは指示されたアーレンスバッハの貴族やランツェナーヴェの兵士などを特に問題なく演じ、「お疲れ様でした」と穏やかに挨拶して退出されました。
○速水奨さん(前編)
速水奨さんはフェルディナンド役です。後編は井口さんと一緒に収録するので、今日は速水さんも前編だけの収録です。
慣れた面々はテストなしでいきなり本番です。一言二言チェックしたらどんどん録っていきます。速水さんもレティーツィアに苦戦していました。
「レティーティア? ツィア? ツヤに近い?」「あ、今の感じで滑らかに」「レティーツィア」「それ!」
音響監督さんとのやり取りが微笑ましかったです。
フェルディナンドが死にかけているシーンは咳き込みがすごくて本当に死にそうで、最初の咳き込みは演技だと思えなくて、思わず「え? 大丈夫ですか? 水、飲みますか?」って心配しました。収録中はミュートにしていてよかったです。これ、スタジオで言っていたら鈴華さんにネタにされるヤツって後で思いました。
○三瓶由布子さん
ゲオルギーネ役の三瓶由布子さんは予定よりスタジオへの到着が早かったです。音響監督さん達が「もう来たの? 早くね?」と驚いているところにスケジュール担当さんが声をかけました。
「時間に余裕があるからアニメの方の収録も入れていい? ギルの4ワードだけ先に収録したいんだけど」「はい。大丈夫です」
アニメもドラマCDも同じキャスト&スタッフなので融通が利くようです。「こういう変更もありなんだ?」と私が驚いている間に、すぐさまアニメ版の収録準備を始める音響スタッフさん達。マジ優秀でした。
「まだ時間あるな。んじゃ、もう梅原さんを待たずにこのままドラマCDも始めるか。ゲオルギーネ、2ワードだし」「さっきのギルより少ないですね」
ギルの収録を終えると、続いてゲオルギーネの収録が始まりました。ゲオルギーネは以前に収録した声を聞いて調整し、収録開始です。暗躍するゲオルギーネらしい声で特に言うことなく終わりました。本当にあっという間に終了。スケジュール表を見直すと、開始予定時刻前に終わっていました。
○梅原裕一郎さん
梅原裕一郎さんはダームエル役、ジギスヴァルト役、マティアス役を演じてくださいます。
まずはジギスヴァルト役から録っていきます。前回に収録した声を聞いてから開始です。そのサンプルボイスが商人聖女のところだったので、ちょっと笑ってしまいました。第一王子なのにローゼマインにもフェルディナンドにも軽くあしらわれている感じがしますね。頑張れ、ジギスヴァルト王子。
次はダームエル役。こちらはアニメの収録をしているので、わざわざ前回の声を聞く必要もなく始まりました。それでも、第二部の頃から考えると成長していますね。セリフはそんなに多くないけれど、存在は結構重要なんですよね。
それから、マティアス役です。マティアスは前の声を聞いてから始めます。マティアスもどちらかというと、口数が少ないキャラなのでセリフ自体は多くありません。
今回大変なのは冬を呼ぶ祝詞。長いし、全員が声を合わせなければならないので、本来ならば四人が集まって収録したいところです。
「後から合わせられるように、最初に『せーの』って掛け声を入れておいて」音響監督さんの指示に従って「せーの」から始めます。
「あの、ここって賛頌とか称賛でなくていいんですか?」「賛美でお願いします」
マティアス役が終わったらモブに協力していただきました。男2の役では急に乱暴な物言いになって驚きました。『本好きの下剋上』で梅原さんが担当する役が基本的に穏やかな物言いのキャラばかりなので、こんなに乱暴な声も出るんだ、と。ちょっと新鮮な気持ちでした。
「咳き込みを長めにくれる?」「やられてるアドリブを2回ください」悲鳴や呻き声にもバリエーションがあって面白かったです。
香月美夜「本好きの下剋上」ドラマCD7
アフレコレポート【前編】
|【前 編】|【中 編】|【後 編】|
2021年某日、ドラマCD7のアフレコが行われました。
今までのドラマCDと違って、なんと今回は2枚組!
普段はドラマCDの山場になるシーンを私が指定し、そのシーンに上手く繋がるように國澤さんが必要な要素をピックアップしてくださって脚本にしてくださいます。今回も同じように必要な要素を挙げていたのですが……。
「ドラマCD7の山場はフェルディナンドの救出とランツェナーヴェとの戦いですよね。そこをメインに、第五部Ⅶの要素を適宜入れていく感じでしょうか。フェルディナンドが窮地に陥ってレティーツィアが絶望するところは外せませんし、やっぱりローゼマインが成長するところも必要ですよね? メスティオノーラの書を授かるところもないと、話が繋がらないし……あれ? CD一枚にそんなに入ります?」
削れる要素が少ないけれど大丈夫かな? と思いつつ、質問メールを担当さん経由で國澤さんへ。
「読み返したところ、尺が厳しいことが判明しました。2枚組のドラマCDをつけることを提案します」
そんな感じで「削れないならCDを増やせばいいんじゃない?」と2枚組にすることはすぐに決まったのですが、作業は今までの倍くらい大変でした。当然なのですが、脚本の確認作業も倍。アフレコに必要な時間も倍なんですよ!
私は届いた脚本を一度で確認しきれなくて、息切れしていました。でも、その甲斐あって重要なシーンにたっぷり尺が取れたと思います。
もう一点、今までのドラマCDと違う点があります。なんと今回はリモートアフレコ!
最初は全員が揃って行っていたドラマCDの収録も、コロナ禍で人数制限ができ、とうとうリモートアフレコですよ。家でiPadとステレオを繋げて聞くのです。設定などの準備は全て旦那がしてくれました。旦那がいなかったら、私、リモートアフレコに参加できなかったと思います。ありがとう!
さて、初めてのリモートアフレコです。私だけではなく鈴華さんもリモート参加、担当さんや國澤さんはスタジオにいらっしゃいます。リモートだとどうしても気軽にお喋りという雰囲気にはならないんですよね。
「スタジオでの会話や休憩時間の小ネタが拾いにくいと思うんですけれど、アフレコレポを書けるくらいのネタが集まるでしょうか?」
「コントロールルームの音も、スタジオの音も聞こえるようになっているので、頑張って拾ってください」
担当さんは応援してくれましたが、スピーカーを通すのと顔が見えないせいでスタッフさん達の会話は誰が喋っているのか一瞬わからないことが多かったです。あと休憩中は雑音が多くて、会話が聞き取りにくく小ネタがあまり拾えませんでした。残念。
コントロールルームがそんな感じなので、スタジオの声優さん達の声がどんな感じになるのか心配でした。でも、そちらは分厚い防音扉を閉めることもあり、きちんと聞こえるのでアフレコは問題なく進みました。
今回のアフレコは四日に分けて行われました。
一日目は井口裕香さん、井上和彦さん、速水奨さん、三瓶由布子さん、梅原裕一郎さんです。
○井口裕香さん(前編)
井口裕香さんは主役のローゼマイン役です。今回は2枚組ですし、セリフが本当に多いので本日収録するのは前編だけで、後編は後日に別収録することになっています。
タイトルコールから収録が始まったわけですが、ここで突然問題が発生。
「2枚組になったけどタイトルに前編とか後編とか入れる?」
音響監督さんの質問にいきなり「え?」となる原作陣。とはいえ、私は2枚組のドラマCDを作ったことがある担当さんと國澤さんに判断を丸投げ。
「他作品の時ってどうでした? 國澤さん、覚えてます?」
「……もう覚えてないですね。2枚組ですし、入れておいた方がいいんじゃないですか?」
前編か後編かわかるように入れることになりました。
2枚組の時はタイトルコールに前編後編を入れる。私、覚えた。
今後、2枚組になるかどうかはわかりませんが。
井口さんはアニメやボイスブックで『本好きの下剋上』の収録に完全に慣れている方なので、一言二言だけ声の確認をするとテストなしで最初から録っていきます。修正部分があると、そこだけ後で修正する感じでさくさく進みます。
「○ページ、後半はセリフではなくナレーションにした方が良いのでは?」
「×ページ、授業中なのに返事が元気すぎません?」
「△ページの祝詞、全ての生命(せいめい)ではなく(いのち)でお願いします」
今回の発音の難関は「レティーツィア」だったようです。皆様が苦労していましたが、井口さんも苦戦していました。「ツィア」が言い難いみたいで、「ツィア、ツィア、ツィア……レティーツィア。よし!」と発音の練習をしていました。
このドラマCD7で井口さんが一番大変だったのは、ローゼマインの成長を声でどう表現するかというものでした。これに関してはきちんとテストして声を作っていくことになります。まずは井口さんに成長ローゼマインを演じていただきました。
「うーん、年齢を上げるのは間違いないんですけれど、これだとあまり変化がないですね。もうちょっと思い切った変化が必要じゃないですか? どういう方向にします? おとなしい感じですか?」
國澤さんの言葉に私も「うーん」と考え込みました。
「変化は必要でしょうけど、成長しても大して言動は変わらないからおとなしくはないですよ」
「そこまで変化をつけるのもおかしいかもしれませんね」
「同一人物であることが伝わらないのも困りません?」
そんな感じのやり取りを音響監督さんが上手くまとめて井口さんにお願いしてくれます。でも、やっぱりちょっと違うんですよね。
「モノローグはテンションを上げずに演じてもらいますか?」
「井口さんが思っているよりは大人のイメージが欲しいですね」
「最初の、第一声は大人っぽさが欲しいです。あとはともかく……」
成長した場面だけは変わった感じが欲しいのですが、あまり別人感が出るのも違う。説明するのも難しいけれど、こちらが説明できないのだから演じる井口さんも難しい。
「テンションが上がって声を張ると、どうしても高くなりますね。幼く聞こえる」
「それは仕方がないんじゃないですか。ローゼマインだし、こんなものですよ」
同一のキャラであることを保持した状態で明らかな変化がわかるように、という面倒臭い注文にも応えてくださいました。ありがとうございます。
○井上和彦さん
井上和彦さんはジルヴェスター役です。
井口さんが単独の収録を終えたところで、途中から井上さんが参加しました。前編にはローゼマインとジルヴェスターの会話が少し長めにあるので、二人の掛け合いを優先し、そこから最後まで収録していきます。
「×ページ、『すり替えられた』が重複するので、片方を削除しませんか?」
「○ページ、『なかろう』を『ないだろう』に修正してください」
「△ページ、空(そら)ではなく(から)の魔石ですね」
「○ページ、目処(めど)と読んでください」
領主らしいジルヴェスターが実にカッコいいです。アニメのアフレコとは少し雰囲気が違います。ジルヴェスターも成長したなと思いますね。
前編の最後まで終わると、ローゼマイン役の井口さんが退場。その後は井上さんが残って、前編後編を含め、ジルヴェスターのセリフの収録をしていきます。
こちらはあっさりと終了。
さすがベテランですね。早い。
ジルヴェスターの収録が終わったら、モブのセリフにも協力していただきました。そのモブ役も意外と大変。
「……これ、ジルヴェスターに聞こえません?」
「うーん、ちょっとジルヴェスターと出番が近すぎるな。別の人に頼むか」
私は音響監督さん達の会話を聞きながら「へぇ、そうなんだ」と思うだけです。ちょっと声優さんが声を変えると区別できないので、私は収録で自分の耳を全く当てにしていません。
そんな私がどうしてアフレコに参加するのか。音響監督さん達のこういう質問に答えるためにいるんですよ。
「ここは何歳くらい?」
「貴族院の奉納式は学生なので若くしてください」
「え? 若く?」
「先生、このアーレンスバッハの貴族って何歳くらい?」
「年配ですね。成人前後の娘がいる年齢だったらOKです。三十代後半から四十代を想定してください」
「ここに集まっている騎士達って何人くらい?」
「他のことをしている人もいるけれど、ダンケルフェルガーだけで約100名。それ以外にローゼマインの護衛騎士やアーレンスバッハの騎士もいるので、この時点で150名くらいはいると思います。ランツェナーヴェの戦いは比較的若いモブやガヤが欲しいですね」
そう、ガヤの収録が大変なんですよ。貴族院の奉納式も戦いのシーンも人数が多すぎるせいです。
「あっちもこっちも大人数か……」
「ガヤをどこかから集めないと難しいですね」
ごめんなさい。この後の戦いシーンっていつも背景に人が多くなるんです。今後のドラマCDでもガヤ収録の問題が出てくると思いますが、よろしくお願いします。
井上さんは指示されたアーレンスバッハの貴族やランツェナーヴェの兵士などを特に問題なく演じ、「お疲れ様でした」と穏やかに挨拶して退出されました。
○速水奨さん(前編)
速水奨さんはフェルディナンド役です。
後編は井口さんと一緒に収録するので、今日は速水さんも前編だけの収録です。
慣れた面々はテストなしでいきなり本番です。一言二言チェックしたらどんどん録っていきます。
速水さんもレティーツィアに苦戦していました。
「レティーティア? ツィア? ツヤに近い?」
「あ、今の感じで滑らかに」
「レティーツィア」
「それ!」
音響監督さんとのやり取りが微笑ましかったです。
フェルディナンドが死にかけているシーンは咳き込みがすごくて本当に死にそうで、最初の咳き込みは演技だと思えなくて、思わず「え? 大丈夫ですか? 水、飲みますか?」って心配しました。収録中はミュートにしていてよかったです。これ、スタジオで言っていたら鈴華さんにネタにされるヤツって後で思いました。
○三瓶由布子さん
ゲオルギーネ役の三瓶由布子さんは予定よりスタジオへの到着が早かったです。
音響監督さん達が「もう来たの? 早くね?」と驚いているところにスケジュール担当さんが声をかけました。
「時間に余裕があるからアニメの方の収録も入れていい? ギルの4ワードだけ先に収録したいんだけど」
「はい。大丈夫です」
アニメもドラマCDも同じキャスト&スタッフなので融通が利くようです。「こういう変更もありなんだ?」と私が驚いている間に、すぐさまアニメ版の収録準備を始める音響スタッフさん達。マジ優秀でした。
「まだ時間あるな。んじゃ、もう梅原さんを待たずにこのままドラマCDも始めるか。ゲオルギーネ、2ワードだし」
「さっきのギルより少ないですね」
ギルの収録を終えると、続いてゲオルギーネの収録が始まりました。
ゲオルギーネは以前に収録した声を聞いて調整し、収録開始です。
暗躍するゲオルギーネらしい声で特に言うことなく終わりました。本当にあっという間に終了。
スケジュール表を見直すと、開始予定時刻前に終わっていました。
○梅原裕一郎さん
梅原裕一郎さんはダームエル役、ジギスヴァルト役、マティアス役を演じてくださいます。
まずはジギスヴァルト役から録っていきます。
前回に収録した声を聞いてから開始です。そのサンプルボイスが商人聖女のところだったので、ちょっと笑ってしまいました。第一王子なのにローゼマインにもフェルディナンドにも軽くあしらわれている感じがしますね。頑張れ、ジギスヴァルト王子。
次はダームエル役。
こちらはアニメの収録をしているので、わざわざ前回の声を聞く必要もなく始まりました。
それでも、第二部の頃から考えると成長していますね。
セリフはそんなに多くないけれど、存在は結構重要なんですよね。
それから、マティアス役です。
マティアスは前の声を聞いてから始めます。マティアスもどちらかというと、口数が少ないキャラなのでセリフ自体は多くありません。
今回大変なのは冬を呼ぶ祝詞。長いし、全員が声を合わせなければならないので、本来ならば四人が集まって収録したいところです。
「後から合わせられるように、最初に『せーの』って掛け声を入れておいて」
音響監督さんの指示に従って「せーの」から始めます。
「あの、ここって賛頌とか称賛でなくていいんですか?」
「賛美でお願いします」
マティアス役が終わったらモブに協力していただきました。
男2の役では急に乱暴な物言いになって驚きました。『本好きの下剋上』で梅原さんが担当する役が基本的に穏やかな物言いのキャラばかりなので、こんなに乱暴な声も出るんだ、と。ちょっと新鮮な気持ちでした。
「咳き込みを長めにくれる?」
「やられてるアドリブを2回ください」
悲鳴や呻き声にもバリエーションがあって面白かったです。
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