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二宮敦人(にのみや・あつと)

1985年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。WEB上で発表していた作品が大反響となり、2009年『!(ビックリマーク)』でデビュー。今もっとも注目される新世代ホラー・サスペンス作家。著書に『18禁日記』『正三角形は存在しない 霊能数学者・鳴神佐久に関するノート』『学校裏サイト』『四段式狂気』などがある。

第2回にお話しを伺うのは二宮敦人先生。実はこうしたインタビューの機会は初めてとのこと。ベールに包まれた、二宮先生が自身のこれまでを振り返りつつ、お仕事ミステリー『郵便配達人 花木瞳子が盗み見る』を中心に語って頂きました。

編集長 うちでは『18禁日記』を刊行させて頂いた後に、「次も何かやろう」って企画が始まったわけですが、最初に二宮さんから頂いた企画って、全然違いましたよね?

二宮 そうでしたね。最初は『18禁日記』の続編というお話だったような気がします。『18禁日記』が日記だったので、そこから発展して「手紙」のお話ということになり、いつの間にか「郵便局員」の話になってました。

編集長 僕は『18禁日記』を本当にスゴいって思っていて、それは一般的な小説のように、物語のための文章を綴っていくのとは異なって、私的に書いたように見える文章が、いつの間にか物語になっちゃってるからなんです。おまけに、そこには人の感情がこれでもかって暴かれている。もう、びっくりしちゃいました。なので、次もご一緒できるなら、何かそうした、一見プライベートに見える文章をギミックとして使った作品にしたかったんです。で、「日記」の次は何だろう? って考えていたところに、「手紙」が来たんで、やっぱり、この人はスゲー! って小躍りしました(笑)。

二宮 ありがとうございます。僕は喋るのが苦手なんですよ。相手から言われたことも、自分が言ったこともすごく気になっちゃうんです。あっ、傷つけたんじゃないかとか。今のは嫌味だったんじゃないかとか。そして、それらを考える前にどんどん話が進んでいく。ついていけなくなる、なので会話というものが恐ろしいです。
大切なこととか、本心を語り合ったりする時は、文通したいです(笑)。文章だったら、ゆっくり考えて書けますので。なので、「手紙」に何かを書くお話というのはイメージを作りやすかったです。

編集長 確かに、僕らってこうやって飲んだりしながら、相当に語り合っていますが、ほとんど作品の話ってしてないですね。何か、「生きるとは?」みたいなよくわからない会話が多い気がします(笑)。

二宮 そうなんですよ。それはそれで楽しいんですけれど。僕は、作品のことを話す時はメールの方がやりやすいんです。

編集長 そうだ、すげー長文のやり取りしてる!

二宮 改行50個くらい、当たり前のようにありますよね。

編集長 (笑)

二宮 書いた方が自分の考えが整理できるし、読んだ方が相手の考えが頭に入ってきやすいんです。

編集長 そもそも、最初に小説を書き出した時って、きっかけはあったんですか? 誰かに言われてとか。ネット上にアップされたのが始まりですよね。

二宮 特にきっかけはなかったと思います。今思えばですが、もやもやした自分の考えを文章にすることで、頭の中を気持ち良くしていたんだと思います。誰かに話して解消、というのが苦手な気質なので。
当時、僕は就職活動をしていたんですが、色々とそれまで見ていなかった社会の現実を突きつけられたんです。全ての学生を平等に面接していると書かれているのに、実際に行ってみると大学ごとに選考ルートが異なっていたり。ぜひ当社に、と笑顔で握手してもらったあとに連絡が途絶えたり。僕はそういうのが許せなくて、しかし効率的に採用を行うにはそうするしかないのだということも一方ではわかっていて、心の中にドロドロしたものが溜まっていった気がします(笑)

編集長 その後、「ホラー系の作家」として認知されていくじゃないですか?

二宮 グロい作品が多いですよね(苦笑)

編集長 お話ししていると、こんなにマイルドなのに(笑)。何で、あんなにダークな世界を描くようになったんでしょうね?

二宮 何でだろう……。うーん、自分が汚いって知っているからじゃないでしょうか。さっきの話で言えば、社会の現実が許せないという考え方は、自分だけは綺麗でいたいということと同じですよね。その会社が作ってきた価値を享受しながら生きてるくせに、それを認めず、価値だけ得ようとしてるって、すごく醜いんです。書き手がまず醜いところからスタートしているので、話の筋がマイナスの方向へ向かっていくんです。人間最高!  みたいにはならず、人間って存在するだけで罪なんじゃないの? ってところから始まる。

編集長 (笑)

二宮 でも、僕は人間が嫌いなわけじゃないんです。生きているのも好きです。人間の存在が罪だとしても、だからこその救いがあると思うんです。だから、あんな感じの方向にいくのかなと思います。無意識のうちにですが。

編集長 そして、多くの作品を執筆されていく中で、ずいぶん作風も変化してきましたよね。『!(ビックリ・マーク)』(アルファポリス)や『18禁日記』はザ・ダークな感じがします。もちろん、パッケージのせいもありますけど。でも、『郵便配達人』は特にそうですが、そこから広がりが生まれている気がします。

二宮 どうなんでしょう。ずっと書きたいものは変わっていなくて、その表現方法を試行錯誤しているだけのような気がします。出版社さんに提出したプロットには、コメディ寄りのものもあればグロいのもあるんです。その時通ったプロットを書かせていただいている、という感じです。中には、本当にどうしようもないようなプロットもありますけど。

編集長 ダークすぎるやつが(苦笑)。確かに、いくつかのプロットを見せて頂いた時に、こっちが何も言わなかったら、この人、大変だって思うことはありますねぇ(笑)。

二宮 (笑)。ダメすぎる企画はもう一回練り直そうBOXにしまっておいています。そこにはトンデモナイのがたくさんたまって、腐臭を放ってます(苦笑)。

編集長 そういう意味では、『郵便配達人』の主人公、瞳子って、ずいぶん明るくて、あっけらかんとしたところがありますよね。

二宮 そうですね、瞳子のようなキャラは書いていて楽しいです。僕、趣味でギャグ漫画を描いていたんですよ。

編集長 えっ!? 確かに絵がすごく上手ですけど、ギャグ漫画……?

二宮 高校では美術部だったんですが、そこで漫画を描いていました。ほとんどがギャグ漫画でした。頭悪そうな内容のものばかりです。

編集長 へー! 好きだったんだぁ。

二宮 ギャグ漫画は読むのも大好きです。映画もコメディが一番好きです。逆にホラーとか絶対観ないですね。

編集長 そうだったんですね!

二宮 恐ろしいので絶対に観られないです。怖いじゃないですか。

編集長 (笑)

二宮 あんな怖いの観る人は本当に凄いと思いますよ……。

編集長 これは絶対に原稿にしちゃおう(笑)。面白いなぁ。

二宮 ただ、怖いのと、面白いのって近い概念かなと思うことはあります。書いていて。どちらも感情の振れであって、その正負が違うだけと言いますか。瞳子も自然に出てきたキャラクターです。作為的に「こうしよう」と思って出てきたわけじゃなくて。僕自身が躁鬱なんじゃないですかね(笑)。上がってる時は瞳子を書いて、下がってる時は人を殺すシーンを書いてる。

編集長 それが一番怖いです(笑)。確かに、『郵便配達人』でも瞳子は明るいのに、ラストのアイツは相当ヤバいです。

二宮 確かにそうかもしれません(笑)。

編集長 どちらも二宮さんの一部ってことなんですね。『郵便配達人』の中に登場する人物でいうと、誰に一番近いってあるんですか?

二宮 誰か一人ってことはないと思いますよ。登場人物をそれぞれ数値化できたとして、それを全部足して、人数で割った時に出る平均値が僕なんだと思います、きっと。

編集長 話が変わりますが、郵便局員ってかなり取材されてるじゃないですか?

二宮 今回の取材はとても面白かったです。郵便って馴染み深いのに、知らないことだらけでした。まず、ハガキをポストに入れてから、相手先に届くまでのプロセスがわからないわけです。どうやって分けているのか、どうやって運ぶのか、どうやって届けるのか、局員の管理はどうなっているのか……どんどん疑問は増える一方でした。誇張して描いている部分はありますが、基本的に取材した事実に基づいて描いています。そのままの事実がやっぱり、面白いんです。

編集長 しかし、今までの作品でも、ここまで「キャラクター色」を前面に出した作品はなかったですよね。

二宮 そうかもしれません。ただ、それほどキャラクターを濃くした意識はないんです。むしろ「郵便配達人」というだけで、けっこうキャラが立ってしまうのが凄いのかもしれません。

編集長 キャラクター・ミステリーって最近とても人気があるジャンルですし、この作品も発売すぐに重版が決まったりで、目論見は成功でしたね。

二宮 パッケージや売り出し方も重要でしょうし、柴田さん(※編集長)のおかげじゃないですか?

編集長 いやぁ、確かに僕はそっちへ仕向けましたけど(笑)、舞台が整ったからって踊れるかどうかは、その作家の力ですから。

二宮 僕で良ければ、いくらでも踊らせていただきますよ(笑)

編集長 でも、二巻も無事に脱稿しましたね(※2015年4月1日発売予定)。そう考えると、固定のキャラクターで描かれるシリーズものも初めてですね。

二宮 それもやりたかったものの一つです。ずっと、前巻の設定を引きずっての続編を出せたらいいなと考えてきたし、一度はチャレンジしたかったんです。実際にやってみると、難しいところも多かったですが。

編集長 読ませて頂いて、1巻以上にとても面白かったですよ。本当に早く読者の方々に読んで欲しいです。

二宮 ありがとうございます。シリーズものをいっぱい書いてる人はスゴいなぁと思いました。

編集長 今までの作品だと、内容的に続編が難しいものが多かったですものね。

二宮 そうですか? 色々な事情で執筆のチャンスがなかっただけだと思いますよ。

編集長 だって、主人公が死んじゃったりしてるじゃないですか。

二宮 いいじゃないですか。二巻には主人公の墓が出たりすれば。むしろ先が気になりますよ。

編集長 ひどい続編だ(苦笑)。

二宮 先は気になっても、売れないかもしれませんね……(笑)。

編集長 次の『郵便配達人』が違って一安心です(笑)。僕も土曜の昼間っから、作品の方向性を伝えたくて、自分の恋愛体験を二宮さんにメールとかして良かったです(笑)。

二宮 柴田さん、瞳子の恋愛を押しましたよね。

編集長 だって、女の子なんだから、恋して欲しいじゃないですか!

二宮 殺人事件が起きてるのに、恋しちゃうのはどうなんだろう、という点が気になってたんですが……何とかうまく書けてるといいんですが。

編集長 大丈夫です! 瞳子ならではの恋にキュンキュンしましたよ。今も多くの作品を準備中ですが、これから目指していること等はありますか?

二宮 ……死にたくないですね。

編集長 究極だ(笑)

二宮 僕のモチベーションは全てそこなんです。生き続けたい。僕の仕事は、例えば農家さんたちのような仕事とは違うと思うんです。娯楽、なくてもいいものを作る仕事だと思うんです。逆に言えば農家さんたちに生かさせてもらっている。そんな僕が今後も生きていくためには、誰よりも努力して、いい作品を生み出し続けなくてはいけないと思っています。それができなくなったら、いっそ死んだ方がいいと感じるんです。死にたくないというのは、そういう意味です。

編集長 力強いお言葉をありがとうございます。それでは、長くなりましたので、最後に読者の皆様に一言を頂ければと思います。

二宮 本当は感謝の言葉をずっと言っていたいです。今まで僕が生きてこられたのは、読者の一人一人のおかげです。本当にありがとうございました。今ここに居られるのは、あなたのおかげです。これからも僕は生き続けられるよう、一生懸命に作品を書くので、良かったら読んで頂ければ幸いです。

編集長 長時間、ありがとうございました。

(2014年12月末/都内某居酒屋にて)

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