香月美夜「本好きの下剋上」ドラマCD4アフレコレポート【前 編】
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2019年某日、ドラマCD第四弾のアフレコが行われました。
鈴華さんと担当さんと駅で待ち合わせをして、スタジオへ向かいます。
「ハァ、無事に収録まで来ましたね」
私がそういう気分になったのは、最初の企画から収録までが長かったせいです。実は、ドラマCD第三弾と第四弾は企画の始まりが同時だったのですよ。ドラマCD第二弾が出て、少し経ってから行われた担当さんとの打ち合わせで話が出たので、一年以上前から企画されていたわけで……。
「ドラマCDをいつ付けるか考えたいのですが、第四部が何巻まで続くのか今の時点でわかりますか?」
「……第四部Ⅸかな? ギリギリを攻めて削りに削れば第四部Ⅷで収まるかもしれませんが……」
私はweb版を開き、第四部のタイトルを数えて考えます。でも、第四部の終盤はキャラ同士の軽いやり取りを削ったら、とんでもなく重苦しい雰囲気になるので難しい。うーん……。
「長期的な計画を立てる時の不確定要素は危険なので、確実に行きましょう。第四部Ⅸが最終巻ということは、間にもう一つドラマCDを付けられそうですね」
「今から考えればドラマCDを付けるのはできそうですけれど、國澤さんは大丈夫なんですか? 脚本を書く時期を考えると、めちゃくちゃ大変ですよ」
國澤さんはドラマCDだけではなく、アニメの脚本も書いてくださっています。この時期は水面下ですでにアニメ化の作業が始まっていて、國澤さんは死ぬほど忙しかったはずです。すでに記憶が曖昧になっていますが、私も確か忙しかったはず……。
そんな流れで第四部Ⅸに付くドラマCD第四弾が先に決まり、それから逆算する形でドラマCD第三弾が決まりました。内容に関しても第四弾はラストに合わせることが最初から決まっていたのですが、第三弾は何をメインに持ってくるのか決まるまでに少し時間がかかった記憶があります。
裏事情はさておき、スタジオに到着したら香盤表を確認します。香盤表とは声優さん達の予定や兼ね役などの一覧表で、モブの貴族や文官を誰がするのか、誰が抜き収録になるのかわかるようになっているのです。
今回はシャルロッテ役の本渡楓さん、ハルトムート役の内田雄馬さん、カルステッド役の森川智之さんが午後から参加で、ジルヴェスター役の井上和彦さんが別の日に収録でした。前回言われていた通り、やはり保護者三人組が揃うのは難しいようです。残念。
「今回はお二人にサイン作業をお願いします」
アニメ化記念プレゼント用にいくつかサインが欲しいという依頼があり、私と鈴華さんは合間を見ながら本や色紙にサインをしていくことになりました。ドラマCDの時はいつもプレゼント色紙へのサイン作業があるのですが、今回は色紙に加えて本があるのでやや多め。多めとは言っても新刊のサイン作業に比べたらほんのちょっぴりですけれど。(笑)
本日の段取りについて話し合いが終わったら、鈴華さんは早速色紙にイラストを描き始めました。私は可愛いマインが描かれていくのを堪能します。生で描かれていくのを見ることができるのです。とても贅沢な時間でしょう?
ずっと見ているわけにもいかないので、私も準備されていたペンで書き始めました。ですが、先が四角のペンなので曲線がいつも通りに書けません。自宅と違ってスタジオには色紙や書籍に予備もないのに、いくつ失敗が出るか……。考えただけでも恐ろしい。
「担当さん、私、いつもTOブックスから送られてくるペンが良いです」
「わかりました。準備させます」
「あ! 私、持ってますよ。TOブックスのペンってこれですよね?」
「さすが鈴華さん! できる女!」
どうやらお仕事関係で出かける時は名刺だけではなく、サイン用のペンも持ち歩くようにした方が良いようです。一つ賢くなりました。
皆様が集合したら、恒例の挨拶です。今回はほとんどの方がドラマCD第三弾に参加していたので、挨拶は簡単に済ませてさっさと質問タイムに入りました。ですが、一度演じている方からは特になく、新しく入ったユストクス役の関俊彦さんとエックハルト役の小林裕介さんから質問されました。
ラオブルートも演じてくださる関さんからはラオブルートの立ち位置というか、イマヌエルとの関係はどのようなものか。
「王の護衛騎士を務める騎士団長がラオブルートで、グルトリスハイトを持たない王を認めない中央神殿の神官長がイマヌエルなので、基本的に相容れません。ここの台詞は中央神殿を馬鹿にしているというか、蔑んでいる感じです。普段から偉そうに言っているくせに……ってイメージで」
小林さんからはエックハルトのキャラについて。コルネリウスと違って、ローゼマインとの兄妹仲が見えにくいようでした。
「兄妹仲は悪くないですよ。ただ、普通の兄妹とは違って、フェルディナンドがいるから成り立つ関係ですね。エックハルトはフェルディナンド至上主義の護衛騎士です。フェルディナンドに其方の妹としてよろしく頼むと言われたので、妹として大事にしている感じです。フェルディナンドの役に立てば、其方は優秀な妹だって褒める……」
少々特殊な関係性に「なるほど」と言いつつ、小林さんの顔が引きつっていました。まぁ、兄妹と言うにはちょっと変な関係ですよね。(笑)
後はローゼマイン役の井口裕香さんから「隠し部屋での一人称が違っているのですが……」という申告がありました。
「隠し部屋だから『わたし』になるんじゃなくて、感情的になったここからここまでが『わたし』ですね。ここは『わたくし』です」
誰ですか、一人称がコロコロ変わるようなややこしい小説を書いたのは……って時々自分に言いたくなりますね。メディアミックスで他の方に作品を委ねる時は特にそう思います。変なところに凝らずに共有しやすい設定にすることも大事だと思い知りました。これからメディアミックスするような作品を書く方は、ぜひ気を付けてください。
質問タイムが終わると、テスト開始です。今回は第四部のラストを盛り上げるため、フェルディナンドが中心の脚本になっています。必然的にフェルディナンドとローゼマインの台詞ばっかり。
そうは言っても、ローゼマイン役の井口裕香さんもフェルディナンド役の速水奨さんもアニメのアフレコで完全にキャラをつかんでいるので、サクサク進みます。本当にアフレコレポートのネタがないってレベルでスムーズでした。お見事。
テストが一回終わると、スタッフによる話し合いタイム。
新しく声を作る必要があったのはラオブルートです。
私「ラオブルート、めちゃくちゃ良いです。すごい! 全く問題なしです」
鈴華さん「本当に良いですよね」
ラオブルートは関俊彦さんが演じてくださったのですが、さすがベテラン。もうね、イメージ通りで言うことなしです。
私「ルーフェンが爽やかすぎます。声にマッチョ感が足りません」
鈴華さん「声にマッチョ……(笑)」
私「熱さが欲しいってことですよ」
鈴華さん「確かにもう少し勢いが欲しいですよね」
ルーフェンを演じてくださる山下誠一郎さんへ音響監督さんが何と伝えてくださったのかわかりませんが、次のテストでは声にマッチョ感が入っていました。
國澤さん「ここ、名前ばかりが連なって少し耳障りなので、修正した方が良いかもしれませんね」
私「ラオブルート騎士団長、レリギオン神殿長、イマヌエル神官長という形で、役職というか立場を加えたらどうですか?」
紙の脚本を読んだ時と、実際に耳で聴いた時では感じ方が変わります。そういう細かい点に気付くのは國澤さんですね。私はどうにも耳が鈍いようです。
音響監督さん「先生、このタウナーデルの大きさってどのくらい?」
私「こんな感じで、サッカーボールみたいな?」
音響監督さん「意外と大きいな」
私「それより、タウナーデルを置くのはテーブルじゃなくて床です。こうベチッと置いてください」
声優さん達への指示だけではなく、効果音を作る上で必要な質問もあります。他は細かい部分の指摘がほとんどです。
「○ページ『……と言ったつもり』が『……って言ったつもり』になっていませんでした?」
「×ページ『おいしいなんて……わたくし』ですが、間は一旦切って、ハァとうっとりした感じの溜息を入れてください」
二度目のテストでは特に問題なく進んだので、本番へ。
ヴィルフリート役の寺崎裕香さんは前回と同じように可愛いヴィルフリートを演じてくださいました。呼び出しに焦る感じがとても良かったです。
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