本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~

香月美夜「本好きの下剋上」ドラマCD4アフレコレポート【中 編】

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ノイズのあった部分などを収録し直したら、次へ進みます。ここで新しく声を作ったのは、ゲオルギーネ。

今回ゲオルギーネを演じてくださったのは三瓶由布子さんです。大領地の第一夫人という貴婦人らしい声ではあるのですが、いかんせん、軽やかな美しさでゲオルギーネではありませんでした。

鈴華さん「ゲオルギーネはもう少し年上じゃないですか?」
國澤さん「そうですね。五歳分くらい上げてもらいましょう。あと、回りくどい嫌らしさが欲しいです」
私「親切なことを言っているように周囲には見せかけてるけど、裏の目的は違うって感じの、内に秘めた嫌らしさがないとゲオルギーネじゃないですからね」

でも、指示を出せば三瓶さんは即座に対応できるのですよ。本当に上手い。声優さんの技量には毎度驚かされます。

新キャラの声を作り終わったら、細かい指摘が飛び交います。

「コルネリウスの掛け声はもうちょっと若くしてください。凄みがありすぎてルーフェンが入っています」
「○ページの『消えていった』の部分にはもう少し重みが欲しいですね」
「×ページの『アダ……何とかの実』ですが、間の空白はいりません。覚えていないのではなく、周囲に聞かせないように意図的に隠す感じでお願いします」

その辺りの指示は一度で大体直るので、本番はサクサク進んでいきます。
ソランジュ役の宮沢きよこさんは、前回と同じくおっとりと優しいソランジュ先生を演じてくださいました。「お持ちください」と「お待ちください」の読み間違いを恥ずかしがっている姿がとても可愛かったです。確かに紛らわしい。

石見舞菜香さんは前回と違って、フィリーネの台詞がないため、ブリュンヒルデ役とヴァイス役で参加してくださっています。どちらも前回演じてくださったので、全く問題なく終わりました。可愛い声に拍手。

そこまで録り終わったら、一旦休憩です。声優さん達は色紙にサインをしたり、お昼ご飯を食べたりします。私達もブースは違いますが、していることは同じ。

「香月先生、鈴華先生、何が良いですか?」
「あ、私はサンドイッチがいいです」

鈴華さんがサンドイッチを手にしたのを耳にしつつ、私は朝食にサンドイッチを食べたので数種類のおにぎりから好きなものを探します。

「塩むすびください」
「……渋いですね」

塩加減が絶妙でおいしいのに、解せぬ。
具が何も入っていないことを心配したスタッフさんによって焼きハラスもいただき、おにぎりをもしゃもしゃ食べてサインしていました。



お昼の休憩が終わったら収録再開です。ここで新しく声を作る必要があったのはユストクス、フラン、ザームの三人。

ラオブルート役は一発でしたが、ユストクス役には関俊彦さんも苦労していました。普通の文官すぎて、「違う! ユストクスはもっと違うの」となるのですが、何をもってユストクスらしいと言うのか……。これを説明するのが本当に難しいのです。

鈴華さん「チャラさが足りないんですよね」
私「もっと、こう、飄々とした感じが……ねぇ」
國澤さん「変人という感じが全くしませんよね」

そんな指示で再度テスト。

鈴華さん「今度は軽すぎですね」
私「ですよね。ユストクスがアホっぽい」
國澤さん「ユストクスはチャラいけれど、貴族らしさが必要なんですよね」

本当に難しすぎるユストクス。何と説明すれば伝わるのか、私達も色々と考えます。

國澤さん「たしか、前も説明するのに苦労したんですよね。あの時は何て言ってましたっけ?」
私「えーと、アフレコレポにあったのは……」
鈴華さん「ユストクスの性格や雰囲気について説明するためのマニュアルがいりますね」

何度目かの挑戦でユストクスができました。一旦キャラをつかむと、関さんはそれでバッチリ演技を続けられるのですが、つかむまでが大変でしたね。
指示を出すために声優さんのブースへ行っていた音響監督さんによると、どうやら関さんはラオブルートの方が台詞多いから、そちらが本役だと思っていたようです。なるほど、そういう選択で力の入れ具合も変わるのですね。新発見です。

フラン役は狩野翔さん。フランにしては時々感情表現が大きく出ることがある点が少し気になりましたが、説明すれば直るので特に問題なし。

鈴華さん「いいんじゃないですか。私は別に気になりません」
私「真面目でお堅い雰囲気が出ているのでOKです」

ザーム役は岡井カツノリさん。フランよりちょっと柔らかい雰囲気で、という注文に合わせてくださいました。

私「OKです。年齢的にも特に問題ありません」
鈴華さん「私もOKです」

新キャラの声ができると、台本を見直しながら話し合いです。

「△ページのやり取りは全体的にちょっと速めというか、テンポ良くしてほしいです」
「×ページ、ローゼマインの泣き声から入った方が良くないですか?」
「○ページの不幸のアクセント、違いましたよね?」
「×ページのローゼマインの台詞ですが、もうちょっとジトッとした感じでお願いします」
「ここのリヒャルダはもうちょっと寂しそうにしてほしいです」
「フラン、ここはもうちょっと感情を抑えてください」

今までは声優さん達への注意やお願いがメインですが、今回は脚本の細かい修正が多かった気がします。これは私の確認が甘いのが原因ですね。この脚本の確認をしている時が一番忙しい時期だったせいか、細かい部分の見逃しというか、もうちょっと確認時に気を配るべきだったなと感じるような言い回しの違いが散見されました。國澤さんと意見を交わしつつ、細々と台詞の修正をしていきます。

「×ページ、数年ではなく数代ですね」
「ここは王子ではなく男の方が良いと思います。洗礼式を終えていなくて、認められていないので」
「この辺り、フェルディナンドへの呼びかけが続くので、ここは省略しましょう」
「こちらもアウブ・アーレンスバッハとアーレンスバッハが並ぶので、耳で聴くと鬱陶しいです。アウブだけにしませんか?」
「あぁ! ○ページ、ギルベルタ商会になっています。プランタン商会が正解です!」
「あ、音響監督さん。演技とはまた別ですが、ここのお守りはシャランとは鳴りません。一つだけなので」

そういえば、音響監督さんから面白い指摘がありました。

「先生、ここって誤字? コンソメが美しい? 美味しいじゃなくて?」
「間違いじゃないですよ。第三部で初めて食べたコンソメをフェルディナンドが『美しい』って評して、それ以来本好きのコンソメは美しいのがお約束です」
「お約束か……」

そうか。「コンソメが美しい」って誤字に見えるんだ……と、ちょっと新たな発見をした気分でした。



最後の部分のテストが始まりました。

「やっと『はっ!』以外のまともな台詞が来た!」

思わず喜びの声が漏れたエックハルト役の小林裕介さんに、ブースの皆が苦笑。尺に収めるためにエックハルトの台詞が結構削られたし、フェルディナンドの前ではそういうキャラだから仕方がないのですが、確かにエックハルトとコルネリウスは「はっ!」と戦闘時の雄叫びばっかり。(笑)

そんなわけで、それまで声は出していたものの、大した台詞のなかったエックハルトの声を作っていくことになりました。

鈴華さん「うーん、若すぎません?」
私「フェルディナンドの護衛騎士なので、もうちょっと重量感があると良いですよね」
國澤さん「エックハルトはもうちょっと年上っぽい雰囲気が欲しいですね。周囲にいるのが速水さんのフェルディナンドや関さんのユストクスなので、それに合わせる感じで……」

速水さんや関さんに合わせるって、とても大変そうですが、その説明だけでエックハルトの声ができました。イイ感じのカッコいいエックハルトです。
声ができたら話し合いです。

「あれ? 何故かフランの台詞がありますが、このシーンにフランはいませんよ」
「じゃあ、エックハルトに言ってもらいましょう」
「香月さん、ここのフェルディナンドってもうちょっと感情的な感じかな? と思うのですが……」
「そうですね。もっと強く感情的になってほしいですね。珍しく感情を発露するシーンなので」
「ここの『大変結構』はどうですか?」
「もう一段優しさが欲しいですね」

要望を出せば、すぐに対応してくださる声優さん達はすごいのです。

今回のドラマCDは第四部のラストですよ。胸に響く。本当に、フェルディナンドの声が、ローゼマインの祝福がグッときます。聴いて。マジ聴いてください。語彙力なくなりますから。

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