○渡辺明乃さん
新しいキャストさんです。ヒルシュール役とフラウレルム役を演じてくださる渡辺明乃さん。
強烈な印象の方でした。地声とヒルシュールの声の切り替えが見事すぎて!
マジで声優ってすごい!
声の雰囲気はピタッと合っていました。
「すごいです。ピッタリ。ヒルシュール先生はそのままで大丈夫です」
「うーん、ちょっとだけ話すスピードをゆっくりしていただいた方が良いかもしれませんね」
國澤さんの指摘で喋り方を心持ちゆっくりにしてもらいました。
ほほぅ、なるほど。確かにこちらの方がしっくりきますね。
声ができれば収録はサクサク進みます。
さすがベテランさん。
次はフラウレルム役です。
こちらは一言なんですけれど、キンキン響くヒステリックな女性の声がバッチリすぎてコントロールルームは爆笑の渦に。
「香月さん、完璧でしょう?」
「完璧ですね」
渡辺さん、ガヤ収録では可愛い女子学生、少年ボイスで騎士見習い、年嵩の側仕えなど多才な声を披露してくださいました。
声と雰囲気の切り替えが本当に見事。
ベテランさんってすごいです。
○石見舞菜香さん
今回フィリーネ役、ブリュンヒルデ役、リーゼレータ役とローゼマイン側近の可愛いどころを三人も演じてくださるのは石見舞菜香さん。
三人とも年齢的にも近いし、台本では隣り合っているセリフもあるため、かなり難しいはず……。それなのに、全部違う可愛い声なんですよ。すごくないですか?
私は本当にビックリしました。フィリーネは少し年齢が下なので幼い雰囲気にすれば差別化できますが、ブリュンヒルデとリーゼレータは演じ分けるのがとても難しいと思うんですよね。
石見さんはやってくれました。すごいです。
フィリーネは幼さの残る可愛い声。
ブリュンヒルデは上級貴族の堂々としたお嬢様らしい声。
リーゼレータはふんわりゆったりおとなしい声。
声音だけではなく口調までそれぞれのキャラに合わせてきっちり演じ分けてくださっています。
お見事。心の中で拍手喝采。
最初の「フェルディナンド」を「フィルディナンド」と言い間違えたくらいで、あとはスムーズでした。そういえば、石見さんっていつもアフレコレポを書く時に困るレベルですんなり終わるんですよね。
石見さんにもモブのセリフやガヤ収録をお手伝いいただきました。
「そこのガヤ、ブリュンヒルデでください」
「リーゼレータでもう一度」
そんな感じで、ローゼマインの側近達が息を呑むシーンでは何人分かいただいたりしていました。
「じゃあ、次は誰でもない声で×ページのエーレンフェストの側近を……」
「待ってください。これ、モブじゃないです。グードルーンです」
回想シーンで「エーレンフェストの側近」と台本には書かれていますが、明らかにグードルーンのセリフです。
「名前があるキャラ? 誰?」
「ユストクスの女装バージョンです。ユストクス役の関さんにお願いしてください」
「……マジか」
音響監督さん達が台本や表に予定変更について書き込んでいきます。
「ごめん、石見さん。それ、別の人のキャラだった。じゃあ、以上です。お疲れさん」
可愛い側近女子三人、お楽しみに。
○遠藤広之さん
一日目最後は遠藤さん。ローデリヒ役、イグナーツ役、ラザンタルク役の三役をお願いしました。イグナーツはヴィルフリートの文官見習い、ラザンタルクはダンケルフェルガーの領主候補生レスティラウトの護衛騎士見習いです。
ローデリヒとイグナーツは以前のドラマCDで演じていただいたため、あっさり終わりました。この二人も年が近いし、文官見習いだし、台本でセリフが並んでいますが、完全に別人の声です。
おどおどした感じの中級文官見習いのローデリヒと、ヴィルフリートの側近で上級文官見習いのイグナーツ。
お見事です。
新しく声を作ったのはラザンタルク。
ダンケルフェルガーらしくディッター大好きな天然わんこ系。テストの声が特に違和感なく、明るくて真っ直ぐな雰囲気に仕上がりました。
「ガヤの協力お願いします。まず、○ページのダンケルフェルガー」
「あ、ディッター中のダンケルフェルガー騎士見習いのガヤはラザンタルクでお願いします。彼もいるので」
「了解。じゃあ、ラザンタルクで」
ラザンタルクの声で「おぅ!」と声を張り上げたり、戦う場面の息遣いを入れてもらったりしていました。
「ここの息を呑むところはローデリヒでお願いします」
ローゼマインの側近達が集う場ではローデリヒの声に切り替えます。
器用だなと感心しますよね。
「以上です。お疲れさん」
収録が終わったところで國澤さんと私は、録音さんを交えてSE(効果音など)について話をしていました。
「○ページ、ここのSEに『スイッチを入れる』とありますが、魔術具を動かす時の音ってどんな感じですか?」
「カチッとかではないですね。魔力が動いた時の音と同じ感じでお願いできますか? 『うにょーん』とか『ぽわわ~ん』って感じの……」
「その二つ、だいぶ違いますよ、先生」
「……お任せします」
難しいところはプロに任せてアフレコ一日目の終了です。
今回の収録は一人ずつなので、全体的にはかなり時間がかかります。今までは一日でほとんど終わって、予定が合わない方の抜き収録を別日に行っていましたが、今回は全部で三日のスケジュールが組まれています。
私は新しいキャストのいらっしゃる一日目と二日目だけ参加して、三日目は鈴華さんと國澤さんにお任せすることに……。〆切の関係で今回は鈴華さんと私が分かれて参加した形になりました。
「体調は大丈夫そうですか、香月さん? 次もありますが……」
「新しいキャラの声はできるだけ確認しておきたいですから頑張りますよ」
○豊口めぐみさん
アフレコ二日目の先頭は新しいキャストの豊口めぐみさんです。ダンケルフェルガーの第一夫人ジークリンデ役と、ハンネローレの筆頭側仕えコルドゥラ役を演じてくださいます。
まずはジークリンデ役から声を作っていきます。
テストの感想としては「可愛すぎますね」でした。ダンケルフェルガーの第一夫人というよりは何だかお嬢様みが強い。
「年齢を上げてもらいましょうか?」
國澤さんの意見を音響監督さんが伝えると、豊口さんは少し考え込みました。
「やってみますが、上げるとコルドゥラと似てしまうかもしれません」
「コルドゥラか……。似ますね」
ジークリンデとコルドゥラは元々イメージ的に結構似ているんですよね。ハンネローレの母親と、ハンネローレの教育係で親戚なわけですから。
「とりあえず声はそのままでも良いので、気位の高さが欲しいです」
「そうですね。もっと上から目線で偉そうにしてもらいましょう」
私と國澤さんの意見に音響監督さんが首を傾げました。
「偉そうにするの?」
「実際、ジークリンデは上位の人でめちゃくちゃ偉いんですよ。ダンケルフェルガーとエーレンフェストでは全然立場が違うんです。」
「ハンネローレとのやり取りはテストの時の雰囲気でお願いしたいです。あの辺りの母親感はすごくよかったので」
テストの時は豊口さんも神様の名前に苦戦していましたが、本番は全く問題なし。
さっくり終わりました。
コルドゥラ役は年齢を上げた声でテストします。
こちらは全く問題もなし。テストの声でそのまま進め、セリフも多くないのであっさり終了しました。
その後は色々なガヤをしてくださいました。
○宮沢きよこさん
前回に引き続き、リヒャルダ役とソランジュ役を演じてくださいます。
「○ページ、ここはもっと慌ててほしいです。何もできない観覧席から戦いを見ていて、終わった途端にローゼマインが土気色の顔になって王族の前で倒れそうな状況なので」
「×ページ、『ディートリンデン様』になってます。『ディートリンデ』です」
テストの修正を伝えると、宮沢さんはすぐに対応してくださいます。
ソランジュ役のテストで「あれ?」と首を傾げる私と國澤さん。
「ソランジュ先生の声が違いますね。もっとほわほわとした感じだったはずです」
「声が細くておっとりしていましたよね? 前のドラマCDって確認できますか?」
「データはありますが、何分かわからないと……」
すぐに前のデータを探し始めてくださる録音さんと録音助手さん。國澤さんは持参していたノートPCでドラマCD4の脚本を確認し始めます。
「前から三分の一くらいのところですね。シーン2です」
録音助手さんがドラマCD4からソランジュの音声を探していきます。これがめちゃくちゃ早くて的確。さっと探せて「すごい!」ってなっていました。
でてきたソランジュの声を確認し、宮沢さんにも聞いてもらいます。音楽なんかも被っているので少々わかりにくいですが、そこは仕方ありません。
「あぁ、わざわざすみません。ありがとうございます」
宮沢さんはすぐにソランジュの声で演じ始めてくださいました。
ガヤ収録はリヒャルダの息を呑むシーンなどを中心に行いました。リヒャルダはローゼマインの筆頭側仕えなので、結構一緒にいることが多いのです。
音響監督さん達は収録忘れがないか何度も表をチェックしていきます。
「はい、お疲れさん。以上です」
「お疲れ様でした」
○山下誠一郎さん
次は山下誠一郎さんです。今回はコルネリウス役、ルーフェン役、アナスタージウス役を演じてくださいます。
コルネリウス役はすんなりOK。台本の修正くらいでした。
「すみません。○ページ、『ですよ』の語尾が続くので、×行目は『です』に変更お願いします」
「了解です」
次はルーフェン役です。
今回は嫁取りディッターがあるので、ルーフェンのセリフは結構多め。しかも、カッコいいセリフが多いんです。野太い声で戦って息を乱しながらのセリフがめちゃくちゃ上手いと思いました。熱のあるセリフに胸が震えます。
「ここ、拡声器で周囲へ呼びかける感じが欲しいんだけど」
「わかりました」
音響監督さんのよくわからぬ指示にもスッと対応できるんですよ。ちなみに、私は違いがわかりません。「何が違ったの? どういう感じ?」となっていました。そういう時は「プロってすごいなぁ」と眺めていることしかできません。
ただ、ルーフェン役は喉に負担の大きいキャラなんですよね。
音響監督さんの「ルーフェンは最後にすればよかったな」という言葉に皆で同意しておきました。
最後に新キャラの第二王子アナスタージウスです。
まずは声を作っていきます。
「紛れもないイケメン声だけど、親しみやすすぎるんですよね。ちょっとコルネリウスに近い。もっと王族らしさというか、高貴さが欲しいです」
「そうですね。この登場でも威圧感というか、すごい人が来たという雰囲気がほしいところです」
私と國澤さんの意見を音響監督さんが山下さんに伝えます。
「あぁ、王子だ。王子の声になった」
「このセリフはもっと上から目線が良いですね。黙って従わせる威厳をお願いします」
こうしてアナスタージウスは王族らしい声に仕上がりました。
イラストも声もイケメン……。アナスタージウスには勿体ないってちょっとだけ思ったのは秘密です。