「本好きの下剋上」ドラマCD6アフレコレポート【後 編】

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次は商人聖女の場面を井口裕香さんと梅原裕一郎さんの二人で収録です。

「掛け合いで収録ができてよかったです」
「噛み噛みで時間がかかったらごめんなさい」

二人が挨拶している間にもブースにはビニールカーテンが引かれ、換気用の扇風機が止められ、マイクの位置が調整されていきました。




○梅原裕一郎さん

梅原裕一郎さんはダームエル、ジギスヴァルト、参列者2です。

今回の準主役とも言えるセリフ数を誇るジギスヴァルト。
まずはテストです。

「ちょっと低すぎるし、硬い印象に思えるのですが……香月先生はどうですか?」
「もっと柔らかくて穏やかな感じじゃないとジギスヴァルトじゃないですね。喋り方が早すぎます」

鈴華さんと私と國澤さんで「うーん」と唸ってジギスヴァルトの声について話し合います。

「個人的なイメージとしては、喋り方はもちろん、声自体もダームエルの方がまだ近いです」
「ダームエルやマティアスとジギスヴァルトが一緒にいることってないので、声を寄せてもらっても良いのでは?」
「たくさんのキャラの中では印象に残る声なんですけれどね」

國澤さんの言葉に納得。
確かに今の梅原さんの声はかなり印象に残る声です。

「今までにないという意味では声はこれでも構いませんが、せめて、もっと穏やかにゆったりと余裕を持った喋り方をしてほしいです。今は文官っぽい感じで貴族らしさが足りません」
「抑揚がありすぎるというか……。王族らしさがないんですよね」
「何というか……。傲慢さや高圧的な空気が声から出ちゃダメなんですよ。当人にとっては当然のことを言っているだけで悪気は一切無いんです」

私達の意見をまとめ、音響監督さんがブースへ行って梅原さんに説明します。その間、コントロールルームでは貴族らしい喋り方について話が続いていました。

「貴族らしい喋り方って、一口に言っても難しくないですか? ほら、今の日本で貴族らしい話し方って言われてもピンとこないというか……」

アニメのアフレコでも貴族らしさが問題になるだろうと言う担当さん。確かにアニメ第三期には貴族が出てきますからね。戦いの最中の騎士にはそれほど貴族らしさは必要ありませんが、話し合いの場では重要になります。

「声優さん達もイメージしやすい貴族らしい喋り方のお手本って、何か思い当たりませんか?」
「天皇陛下みたいな感じですよ。さすがにそのままそっくり口調を真似ると、ドラマCDやアニメには向かないスピードですけどね。皇室の方々って皆様、穏やかでゆったりとしていて抑揚も少なめで丁寧にお話しするでしょ? あんな感じをイメージすると、貴族らしくなるんじゃないですか」

そんな感じで試行錯誤しつつ、ジギスヴァルトの声ができました。

「○ページ、ジギスヴァルトのセリフを修正させてください」
「×ページ、ローゼマインの『領主一族』アクセントがおかしくないですか?」
「△ページのジギスヴァルト、ちゃんと溜息を吐いてほしいです」

商人聖女のシーンを終えると、井口裕香さんは終了です。
「お疲れ様でした。お先に失礼します」
井口さんが去ると、5分間の換気と消毒が行われ、一人になった梅原さんは別の場面のジギスヴァルトを収録していきます。
そちらはあっさり終わりました。


次はダームエルです。
梅原さんの本役ですが、今回のセリフは1つだけでした。
あっさり終了です。

キャスティング担当さんからの梅原さん情報。
「梅原さんと別現場でお会いした時に今回の本好きの話をしていて『本役のダームエル、1ワードしかないんですね』って言われちゃってさ。こういう時って何て返したらいいんだろうね?」

「あぁ~……。ダームエルは良いキャラだし、人気はあるんですけど、第五部では出番が少ないんですよね」
「たまの出番ではめちゃくちゃ良いところを持っていくんですけど、ドラマCDでは結構削られがちというか……良いキャラなんですよ」

鈴華さんと國澤さんによる必死のフォローが入るダームエル。
そうなんですよ。ドラマCDの出番は少ないけれど、人気はあるんです。人気キャラ投票では安定して5位くらいには入ります。
一応ドラマCDの範囲の書籍にはコンラートの将来を巡るフィリーネとダームエルの会話や見せ場があるけれど、そのエピソードは全くドラマCDに入っていません。

「まぁ、ダームエルの出番が多いのは第二部後半と第三部ですからね。アニメがあるからいいじゃないですか」

ドラマCDで出番の多いキャラは貴族キャラが多いんです。つまり、第三部以降に登場するので全くアニメに全く出ないキャラばかりで「アニメにも呼んでください」「アニメにまだ出ないんですか?」と尋ねられることが多いくらいです。

「今回のドラマCDなんて、ワンワードでもダームエルにセリフがあってよかったなって私は思いますけど」
「じゃあ、今度から『セリフがあってよかったね』って返してみようか」
「それはどうかと……(笑)」

でも、本当にダームエルはセリフがあって良かったですよ。関俊彦さんには本役のユストクスのセリフ、一つもありませんでしたから。




○潘めぐみさん

潘めぐみさんが演じてくださるのは、ディートリンデ、クラリッサです。

ディートリンデは以前の声を聞いてから始めます。
図書館のシーンと、レオンツィオに肩入れするシーン。

「チョロすぎませんか?」
「基本的にチョロいですよ。トルークで惑わされて、意見を誘導されている感じが出ればOKです」

自分の思った通りに突き進んでいくディートリンデはトルークがなくても、我慢せず我が道を貫いていますが、それはそれ。
ディートリンデはすぐに終わりました。

次はクラリッサです。ハルトムートの婚約者。

「クラリッサ、可愛いですね」
「めちゃくちゃ元気が良くて可愛いと思います」

ディートリンデも可愛い声だけれど、クラリッサも可愛いんです。
同じ年頃の女性ですが、かなり性格が違うせいか別の声に聞こえます。すごいですね。


これで2日目のアフレコは終了です。
今日はお昼休みもないくらいにスケジュールが詰まっていたことと、セリフ数の多い主役の収録が続いていたことで1日目より収録時間は短かったのにとても疲れました。




《アフレコ3日目》

本日、鈴華さんはお休みです。作画作業が佳境とのこと。頑張れ!
私も自分の作業を進めなければならないのですけれどね。(笑)



○宮沢きよこさん

宮沢きよこさんが演じてくださるのは、ソランジュです。
前回の声を聞いてから収録開始です。
穏やかなおばあちゃまって感じで良いですよね。
もう慣れたもので、特に修正もなく終了。




○諸星すみれさん

諸星すみれさんが演じてくださるのは、ハンネローレです。
他の方々と同様に前回の声を聞いてから収録開始。
相変わらず可愛い声です。
「くっ、ハンネローレ様が可愛い」と旦那が喜んでいたので間違いありません。




○田村睦心さん&中島愛さん

田村睦心さんが演じてくださるのは、ルッツ、マグダレーナです。
中島愛さんが演じてくださるのは、トゥーリ、マルティナ、オルタンシアです。

まずはルッツとトゥーリ。
エピローグですが、二人の掛け合いから始まりました。
ここに出てくるのは、アニメより成長している二人。ただ、いくら成長しているとはいえ、完全に面影がなくなっていると困るので変化させすぎるのも注意が必要なんですよね。
『本好きの下剋上』は少しずつキャラが成長していくので、イラストレーターの椎名さんも大変そうだけれど、声優さんにとっても大変だろうなと思います。

でも、二人ともさすがの安定感。前回のアニメのアフレコから二年近く経っているとは思えません。バッチリです。


次はマグダレーナです。
田村さんの女性キャラですが、当然ルッツの少年声とは全く違いますね。
一発でOKです。
カッコいい女性という感じで、とてもマグダレーナらしい声に仕上がりました。
強そうです。さすがダンケルフェルガーの女。


それから、マルティナです。
ディートリンデの側仕え見習いで、セリフは一つだけ。

「あぁ~、どうしてもトゥーリと似る~! トゥーリの声を若くして差を付けようと思ったのに……。しかも、出番が近いなんて」

中島さんが頭を抱えているのがコントロールルームから見えました。

「あの、別に似ていて構いません。元々マルティナはトゥーリと似ている設定なんです。だから、中島さんにお願いしたんだと思ってました。ちょっと差があれば充分です」
「設定で似てるから今のままで良いって」

音響監督さんの声に「え? 似ていて良いんですか?」と中島さんからも驚きの声が……。
驚かれましたが、そのまま続行。
すぐに終わりました。


最後はオルタンシアです。
中島さんに声を作ってもらい、収録していきます。

「すみません。○ページって言葉通り、旦那様の好きなお花をもらえて嬉しいわってシーンじゃないですよね?」
「違いますね。アナスタージウス王子からの要望で言わされています」
「うぅ……。ひどい」

先の展開を知っているようで、オルタンシアの運命に項垂れる中島さん。

「ハンネローレがハンネローネになってません?」
「○ページ、少し離れた本棚の陰に隠れているローゼマイン達にも聞こえるように、ちょっと声を張る感じが欲しいです」

ちょこちょこと修正をお願いしつつ、収録終了です。
お疲れ様でした。

「今回は脚本執筆の時から、尺に収まるかどうか不安だったんです」

國澤さんが録音さんと録音助手さんに確認しています。

「大丈夫そうです!」

これで一安心。
その後は國澤さんと今後のドラマCDを考える上での話し合いをしました。設定として決まっていても、小説には登場しない情報があるので、直接お話ができると確認がスムーズです。

「ディートリンデに手紙を渡したのは、結局誰なんでしょう?」

第五部Ⅴの短編や特典SSで触れましたが、誰が出した手紙なのか、読んでもわからないままなんですよね。読者の方々も気になるだろうけれど、本編で「差出人不明」なのに受け取った手紙に差出人の名前は書けません。

「あぁ、それ、複数の手紙があるんですけど、第五部Ⅴの特典SSでフェルディナンドが先に取り上げて阻止した方はアナスタージウスが出した手紙、ディートリンデが受け取ったのはゲオルギーネが出した手紙です」


國澤さんの質問でアフレコは終了です。
ドラマCD6の完成、楽しみですね。



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