|【前編】|【中編】|【後編】|
2022年某日、ドラマCD9のアフレコが行われました。
前回に引き続き二枚組で、第五部Ⅹの中央の戦いを中心にした構成になっています。 企画当初は中央の戦いを中心に継承の儀式まで入れる予定でした。そのため、第五部ⅩⅠにドラマCDを付けると決まったのですが……。
「当初の予定より入れたい場面が多いので、継承の儀式は次回にして王族との話し合いまでを範囲にさせてください」
國澤さんから脚本の第一稿と共に「この部分にこういうシーンを入れたいです」と書かれて、それに付随する質問の数々がやって来ました。
「アナスタージウスはここでラオブルートとどういうやりとりをしていますか? 差し支えがなければ入れたいです」 「女神が降臨していて、ローゼマインの意識がない間はどういう会話をしていたのか伺っても良いですか?」 「フェルディナンドは具体的にどんな形で暗躍したのでしょう?」
全部閑話集で書く予定で、質問がメールで届いた時はまさに執筆中でした。「今書いているところなので原稿が上がるまでもうちょっと待ってください」と返事をして体調を見計らいながらひたすら書いていました。コロナに罹って大変だった時期ですね。 そうして完成した閑話集の初稿を國澤さんに送ったところ……。
「待ってください。入れたい場面が多すぎるんですけれど! これ、ドラマCDは中央の戦いだけにしましょう。王族との話し合いも次に回して……」
そんな感じの流れで、第五部ⅩⅠに付けるドラマCDですが、内容はエーレンフェスト防衛戦を終えてアーレンスバッハへ移動するところから第五部Ⅹの終わりまでの範囲になりました。
……2枚組になっても尺が足りなかった。おかしい。こんなはずでは……。
関係者一同が首を傾げつつも脚本は無事に仕上がりました。 アフレコの開始です。 今回は二日に分けて収録になりました。日数が少ない分、長時間です。 私や鈴華さんはリモート参加。これで何回目かな? リモートでのアフレコにもさすがに慣れてきましたね。
アフレコ1日目
○宮沢きよこさん、渡辺明乃さん
宮沢きよこさんはソランジュ役を、渡辺明乃さんはヒルシュール役を演じてくださっています。 二人ともそれぞれ以前に収録した声を聴いてから収録の開始です。
「○ページ、ソランジュ先生の最初をもうちょっと弱々しい感じにしてください」 「×ページ、『開いてて』を『開いて』に修正してください」
ジェルヴァージオとラオブルートの裏切りを最初に目撃することになったソランジュの悲しい心情がよく出ています。
渡辺さんは特に何も言うことなく終了しました。 セリフ自体が少ないせいもありますが、本当にお上手。 ヒルシュール先生の落ち着いた感じの声、好きなんですよね。個人的にはフラウレルム先生が退場したのがちょっと寂しいです。(笑)
二人の収録は予定の半分くらいの時間で終了しました。
「お疲れ様でした。良いお年を~」
そんな挨拶に季節の移り変わりを感じました。
○関俊彦さん
関俊彦さんはユストクス役とラオブルート役とハイスヒッツェ役を演じてくださっています。
今回一番セリフが多いのは、敵役として立ちはだかるラオブルート役ですね。 収録もラオブルート役から始まりました。 まず以前に収録した声を聴いて確認するところから始まります。 信頼される騎士団長の顔のままヒルデブラント王子を陥れるラオブルート。
「こんな子供を騙すなんて! いくら悪役でも酷い! 誰、こんな男を登場させたのは!?」と叫ぶ私に、「騙したり操ったりするならやりやすい子供を標的にするのは当然では?」って内なるラオブルートが囁く感じで脳内が忙しかったです。
「○ページ、もうちょっと含みを持たせてください」 「×ページ、妻が亡くなったという話をしているのにちょっと嬉しそうに聞こえます。粛々とした感じというか、悲しげな空気にしてください」 「△ページ、『鍵の3つ』ではなく『鍵が3つ』です。全部で5つあるので」 「□ページ、すみません。『どけだけ』は『どれだけ』です。修正してください」
収録する中でちょっと面白かったのが、これ。
「○ページ、『愛しい妻』です。『美しい妻』ではないですね」 「すみません」 「じゃあ、もう一回」 「美しい妻と離宮に……ん? なんか『美しい妻』って言っちゃう。なんでだ?」
関さんは不思議そうでしたが、エグランティーヌは美しいですから仕方ありません。「美しい妻」でも間違いではないなと思って、ちょっと楽しかったです。
ハイスヒッツェ役はフェルディナンドの後ろをついて回る感じですね。大型ワンコのような雰囲気が出ています。ラオブルートとは完全に逆。
「○ページ、もっとハッキリ。勢いよく返事してください」 「×ページ、止めたいけれど止められない躊躇いを出してください」 「△ページ、王子相手ですが、もうちょっと強めにできませんか? 戦っている最中の警戒した感じというか、ピリピリした空気を感じさせてほしいです」
独走するフェルディナンドに振り回されつつ必死に付いていったり、講堂に突っ込んできてラオブルートに立ち向かっていくアナスタージウスを守ったりするハイスヒッツェ。ちょっと可哀想で、頑張れ! と応援したくなりました。
最後はユストクス役です。 今回もセリフが少ないですね。陰で動いているのですが、ローゼマインの視界には入らない活躍なので、ドラマCDではどうしても出番が少なめになってしまいます。
「○ページ、ここはもうちょっと柔らかく。戦いの空気が少し抜けた感じを出してください。ちょっとハイスヒッツェに近い感じになってます」
予定通りに終わり、写真撮影と色紙にサインをして終了です。
○長縄まりあさん、田村睦心さん
長縄まりあさんはレティーツィア役を、田村睦心さんはマグダレーナ役とヴァラマリーヌ役とレティーツィアの護衛騎士役を演じてくださっています。
アフレコが始まる前に脚本を確認している二人の会話が聞こえてきました。 「名前が……難しいんですよね」 「それ! 皆、名前が長いぞー!(笑)」 田村さんの笑い混じりの叫びにスタッフさん達の笑いが重なり、私も思わず笑ってしまいました。
……苦労させてごめんね。(笑)
一頻り笑った後、収録の開始です。
「ヴァラマリーヌの声の確認から始めます」 「はーい」
元気よく返事した田村さんから出てきたのは、当然ヴァラマリーヌの声なのですが……。
……めちゃくちゃ美少女! 可愛い! え? ルッツと同じ人の声!? いやいや、嘘でしょ?
傍系王族の姫らしい可愛い声にビックリしました。田村さんは女性キャラの声としてブリギッテの声も演じてくださったことがありますが、あの時とも全然違うんですよ。すごい。 ヴァラマリーヌのセリフ自体は少ないので、ビックリしている内に収録は終わりました。
長縄さんの声は本当に可愛いなってしみじみ思いますね。役目を果たそうと奔走し、ローゼマインを気遣うレティーツィアにピッタリ。このまま頑張ってほしいと素直に思えるキャラになっていると思います。
収録後、写真撮影と色紙にサインをする中で交わされていた田村さんとスタッフさんの会話。
「本好きのドラマCDに呼ばれても、もうルッツが出ないんですよね」 「出るよ。最後」 「え? ルッツってまだ出るんですか!?」
……そう。ルッツはね、最後に出てきて良いところを持っていくんだよ。
最終巻のドラマCDに出てくるルッツが今から楽しみです。
○井上和彦さん
井上和彦さんはジルヴェスター役と先代ツェント役です。
「あれ、井上さんの到着が早いですね。小林さんが来る前に終わりそう?」 「先にやるか」
声優さんの到着時間によっては順番を入れ替えて収録することも珍しくありません。この辺りは個別収録だからできることですね。
「先代ツェントの声を作ります」
このキャラ、ドラマCDでは回想にちょっと出てくるだけですが、結構重要人物なんですよ。フェルディナンドがアダルジーザの離宮を出てエーレンフェストへ移動する許可を出した人物。また、病になって第二王子に譲位するためにグルトリスハイトを継承させたところ、第一王子が激昂して第二王子を殺害。その後、「自分にグルトリスハイトを譲れ」と脅迫されながら殺されて政変のきっかけとなったツェント。ローゼマイン視点の本編にはほとんど出ないけれど、背景というか世界を成立させるためには重要なキャラ。
「先生、どうですか?」 「OKです」
収録の際にそこまでキャラの説明をするわけではないのですが、重みのある先代ツェントの声になりました。カッコいいですね、うん。
ジルヴェスターは慣れていることもあってサクッと終了。 ちょっとカタカナの名前に詰まるところはありましたが、そのくらい。 井上さんはセリフに載せる感情などに迷いがなくてとても安定感があると思います。
予定通りより早く収録は終了。 「良いお年を」という挨拶と共にお帰りになりました。
○小林裕介さん
小林裕介さんはエックハルト役を演じてくださっています。
今回も戦闘シーンがほとんどなので、エックハルトのセリフはそれほど多くありません。 私が個人的にエックハルトの見せ場だと思ったのは、捕らえられたディートリンデやアルステーデに対する態度ですね。 セリフだけでも十分にフェルディナンド至上主義の怖さが伝わるのですが、そこに音響監督さんの指示が加わると更に……。
「踏みつけるアドリブをください」 「はい」
……何の躊躇いもなく踏みつけるの、エックハルトに似合うな。
イメージ通りと感嘆の息を吐いていました。 収録は進んでいき、講堂の戦いに場面が移ります。 ここで音響監督さんにアドリブの追加をお願いしました。
「あ、ここは魔術具の爆発に巻き込まれるので、悲鳴の部分にエックハルトの声もお願いできますか?」 「え? 巻き込まれるの?」 「はい、この手前にセリフがある三人とアナスタージウスは確実にラオブルートが投げた魔術具の爆発に巻き込まれますね」
その場面はweb版にはなく、閑話集のアナスタージウス視点を元にしている部分です。どういう流れになるのか説明します。
「普通にモブで良いと思ってた。他のキャラ、忘れそうだな」
当日に変更があると、チェック漏れしやすいんですよね。私もなるべく覚えておこうと思っていましたが、優秀な録音助手さんが指摘してくださったので、収録漏れはありませんでした。それぞれのキャラの新鮮な悲鳴をお楽しみください。
小林さんにはモブの騎士3もお手伝いしていただいて終了です。 「良いお年を」
○休憩
「森川さんが来るまで約30分の休憩です」 「はーい」
緊張した空気が一気に緩んで、ざわざわとし始めるコントロールルーム。 その中に鈴華さんの「あの、香月さん。良いですか?」という声が聞こえました。
「良いですよ。何ですか?」 「えーと、『このラノ』1位と殿堂入り、おめでとうございます」
スタジオの音が筒抜けになるのと同じで、私と鈴華さんの会話もコントロールルームには筒抜けなのでスタッフさんがざわっとしました。
「え? 今頃?」 「お祝いイラスト、描いてましたよね?」 「う、直接言っておきたかったので……」
……鈴華さん、お祝いイラストまで描いてくれたのに……いい人過ぎる。
「あと、殿堂入りって何ですか? おめでたいことなのはわかるのですが、どういう状態になったら殿堂入りするのかとか、殿堂入りしたらどうなるのかとか、わからなくて……」 「三年連続で1位だったら殿堂入りって以前『このラノ』のインタビューを受けた時に聞いた記憶があります。『本好き』は連続ではないけれど、1位が3回目だし、もう何年も5位以内に居続けたので殿堂入りになったんじゃないかな、多分」
『このラノ』はできるだけ色々な作品を紹介するためのランキングなので、殿堂入りは人気のある作品がずっと上位を独占するのを防ぐための措置のようです。殿堂入りすると、次からは投票対象から外されます。
「あと、エックハルトのif話! 酷すぎません!?」 「あ、あぁ……。まぁ、うん。でも、仕方ないよ。それに所詮if話だし、実際はそうならなかったから良いかなって」 「ifって言ったら何でも許されると思ったら大間違いですよ!」
どうやら鈴華さんには許されないらしい。(笑) 実はエックハルト、大好き?
「でも、エックハルトはまだ良いんですよ。自分の思うままに突き進むから。ヴィルフリートこそif話では死にまくるんです。巻き込まれて殺されることが多いし、ヴィルフリートの方が酷くて可哀想」
あのifでも死ぬし、こうなったら廃嫡の末に暗殺だし、ヴィルフリートはかなり危険な立場にいるんですよね。それなのに、明るく意気揚々と地雷原に突っ込んでいくようなことをするので作者としてもめちゃくちゃ困るキャラ。プロットに反して勝手に暴走しようとするキャラという意味ではヴィルフリートとハルトムートが困ったちゃんですね。プロットの流れ上に軟着陸させるために何度道を逸れたことか……。
「……ヴィルフリート、生きてて良かった」 「うん。よかった」
機械越しに行われる私達の会話の裏側ではTOブックスの他作品のドラマCDについて唐突に打ち合わせが始まっていました。 スケジュールの確認をして「聞いてないよ! これの二カ月前にこれをするの!?」「あの作品の収録がその後になかった!?」「日程的にはここしかないけど、うわぁ……」と色々な人から悲鳴が上がるのを聞きながら、私は「頑張れ~」とこっそり応援。 どの作品でもスタッフさんは大変そうです。
香月美夜「本好きの下剋上」ドラマCD9
アフレコレポート【前編】
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2022年某日、ドラマCD9のアフレコが行われました。
前回に引き続き二枚組で、第五部Ⅹの中央の戦いを中心にした構成になっています。
企画当初は中央の戦いを中心に継承の儀式まで入れる予定でした。そのため、第五部ⅩⅠにドラマCDを付けると決まったのですが……。
「当初の予定より入れたい場面が多いので、継承の儀式は次回にして王族との話し合いまでを範囲にさせてください」
國澤さんから脚本の第一稿と共に「この部分にこういうシーンを入れたいです」と書かれて、それに付随する質問の数々がやって来ました。
「アナスタージウスはここでラオブルートとどういうやりとりをしていますか? 差し支えがなければ入れたいです」
「女神が降臨していて、ローゼマインの意識がない間はどういう会話をしていたのか伺っても良いですか?」
「フェルディナンドは具体的にどんな形で暗躍したのでしょう?」
全部閑話集で書く予定で、質問がメールで届いた時はまさに執筆中でした。「今書いているところなので原稿が上がるまでもうちょっと待ってください」と返事をして体調を見計らいながらひたすら書いていました。コロナに罹って大変だった時期ですね。
そうして完成した閑話集の初稿を國澤さんに送ったところ……。
「待ってください。入れたい場面が多すぎるんですけれど! これ、ドラマCDは中央の戦いだけにしましょう。王族との話し合いも次に回して……」
そんな感じの流れで、第五部ⅩⅠに付けるドラマCDですが、内容はエーレンフェスト防衛戦を終えてアーレンスバッハへ移動するところから第五部Ⅹの終わりまでの範囲になりました。
……2枚組になっても尺が足りなかった。おかしい。こんなはずでは……。
関係者一同が首を傾げつつも脚本は無事に仕上がりました。
アフレコの開始です。
今回は二日に分けて収録になりました。日数が少ない分、長時間です。
私や鈴華さんはリモート参加。これで何回目かな? リモートでのアフレコにもさすがに慣れてきましたね。
アフレコ1日目
○宮沢きよこさん、渡辺明乃さん
宮沢きよこさんはソランジュ役を、渡辺明乃さんはヒルシュール役を演じてくださっています。
二人ともそれぞれ以前に収録した声を聴いてから収録の開始です。
「○ページ、ソランジュ先生の最初をもうちょっと弱々しい感じにしてください」
「×ページ、『開いてて』を『開いて』に修正してください」
ジェルヴァージオとラオブルートの裏切りを最初に目撃することになったソランジュの悲しい心情がよく出ています。
渡辺さんは特に何も言うことなく終了しました。
セリフ自体が少ないせいもありますが、本当にお上手。
ヒルシュール先生の落ち着いた感じの声、好きなんですよね。個人的にはフラウレルム先生が退場したのがちょっと寂しいです。(笑)
二人の収録は予定の半分くらいの時間で終了しました。
「お疲れ様でした。良いお年を~」
そんな挨拶に季節の移り変わりを感じました。
○関俊彦さん
関俊彦さんはユストクス役とラオブルート役とハイスヒッツェ役を演じてくださっています。
今回一番セリフが多いのは、敵役として立ちはだかるラオブルート役ですね。
収録もラオブルート役から始まりました。
まず以前に収録した声を聴いて確認するところから始まります。
信頼される騎士団長の顔のままヒルデブラント王子を陥れるラオブルート。
「こんな子供を騙すなんて! いくら悪役でも酷い! 誰、こんな男を登場させたのは!?」と叫ぶ私に、「騙したり操ったりするならやりやすい子供を標的にするのは当然では?」って内なるラオブルートが囁く感じで脳内が忙しかったです。
「○ページ、もうちょっと含みを持たせてください」
「×ページ、妻が亡くなったという話をしているのにちょっと嬉しそうに聞こえます。粛々とした感じというか、悲しげな空気にしてください」
「△ページ、『鍵の3つ』ではなく『鍵が3つ』です。全部で5つあるので」
「□ページ、すみません。『どけだけ』は『どれだけ』です。修正してください」
収録する中でちょっと面白かったのが、これ。
「○ページ、『愛しい妻』です。『美しい妻』ではないですね」
「すみません」
「じゃあ、もう一回」
「美しい妻と離宮に……ん? なんか『美しい妻』って言っちゃう。なんでだ?」
関さんは不思議そうでしたが、エグランティーヌは美しいですから仕方ありません。「美しい妻」でも間違いではないなと思って、ちょっと楽しかったです。
ハイスヒッツェ役はフェルディナンドの後ろをついて回る感じですね。大型ワンコのような雰囲気が出ています。ラオブルートとは完全に逆。
「○ページ、もっとハッキリ。勢いよく返事してください」
「×ページ、止めたいけれど止められない躊躇いを出してください」
「△ページ、王子相手ですが、もうちょっと強めにできませんか? 戦っている最中の警戒した感じというか、ピリピリした空気を感じさせてほしいです」
独走するフェルディナンドに振り回されつつ必死に付いていったり、講堂に突っ込んできてラオブルートに立ち向かっていくアナスタージウスを守ったりするハイスヒッツェ。ちょっと可哀想で、頑張れ! と応援したくなりました。
最後はユストクス役です。
今回もセリフが少ないですね。陰で動いているのですが、ローゼマインの視界には入らない活躍なので、ドラマCDではどうしても出番が少なめになってしまいます。
「○ページ、ここはもうちょっと柔らかく。戦いの空気が少し抜けた感じを出してください。ちょっとハイスヒッツェに近い感じになってます」
予定通りに終わり、写真撮影と色紙にサインをして終了です。
○長縄まりあさん、田村睦心さん
長縄まりあさんはレティーツィア役を、田村睦心さんはマグダレーナ役とヴァラマリーヌ役とレティーツィアの護衛騎士役を演じてくださっています。
アフレコが始まる前に脚本を確認している二人の会話が聞こえてきました。
「名前が……難しいんですよね」
「それ! 皆、名前が長いぞー!(笑)」
田村さんの笑い混じりの叫びにスタッフさん達の笑いが重なり、私も思わず笑ってしまいました。
……苦労させてごめんね。(笑)
一頻り笑った後、収録の開始です。
「ヴァラマリーヌの声の確認から始めます」
「はーい」
元気よく返事した田村さんから出てきたのは、当然ヴァラマリーヌの声なのですが……。
……めちゃくちゃ美少女! 可愛い! え? ルッツと同じ人の声!? いやいや、嘘でしょ?
傍系王族の姫らしい可愛い声にビックリしました。田村さんは女性キャラの声としてブリギッテの声も演じてくださったことがありますが、あの時とも全然違うんですよ。すごい。
ヴァラマリーヌのセリフ自体は少ないので、ビックリしている内に収録は終わりました。
長縄さんの声は本当に可愛いなってしみじみ思いますね。役目を果たそうと奔走し、ローゼマインを気遣うレティーツィアにピッタリ。このまま頑張ってほしいと素直に思えるキャラになっていると思います。
収録後、写真撮影と色紙にサインをする中で交わされていた田村さんとスタッフさんの会話。
「本好きのドラマCDに呼ばれても、もうルッツが出ないんですよね」
「出るよ。最後」
「え? ルッツってまだ出るんですか!?」
……そう。ルッツはね、最後に出てきて良いところを持っていくんだよ。
最終巻のドラマCDに出てくるルッツが今から楽しみです。
○井上和彦さん
井上和彦さんはジルヴェスター役と先代ツェント役です。
「あれ、井上さんの到着が早いですね。小林さんが来る前に終わりそう?」
「先にやるか」
声優さんの到着時間によっては順番を入れ替えて収録することも珍しくありません。この辺りは個別収録だからできることですね。
「先代ツェントの声を作ります」
このキャラ、ドラマCDでは回想にちょっと出てくるだけですが、結構重要人物なんですよ。フェルディナンドがアダルジーザの離宮を出てエーレンフェストへ移動する許可を出した人物。また、病になって第二王子に譲位するためにグルトリスハイトを継承させたところ、第一王子が激昂して第二王子を殺害。その後、「自分にグルトリスハイトを譲れ」と脅迫されながら殺されて政変のきっかけとなったツェント。ローゼマイン視点の本編にはほとんど出ないけれど、背景というか世界を成立させるためには重要なキャラ。
「先生、どうですか?」
「OKです」
収録の際にそこまでキャラの説明をするわけではないのですが、重みのある先代ツェントの声になりました。カッコいいですね、うん。
ジルヴェスターは慣れていることもあってサクッと終了。
ちょっとカタカナの名前に詰まるところはありましたが、そのくらい。
井上さんはセリフに載せる感情などに迷いがなくてとても安定感があると思います。
予定通りより早く収録は終了。
「良いお年を」という挨拶と共にお帰りになりました。
○小林裕介さん
小林裕介さんはエックハルト役を演じてくださっています。
今回も戦闘シーンがほとんどなので、エックハルトのセリフはそれほど多くありません。
私が個人的にエックハルトの見せ場だと思ったのは、捕らえられたディートリンデやアルステーデに対する態度ですね。
セリフだけでも十分にフェルディナンド至上主義の怖さが伝わるのですが、そこに音響監督さんの指示が加わると更に……。
「踏みつけるアドリブをください」
「はい」
……何の躊躇いもなく踏みつけるの、エックハルトに似合うな。
イメージ通りと感嘆の息を吐いていました。
収録は進んでいき、講堂の戦いに場面が移ります。
ここで音響監督さんにアドリブの追加をお願いしました。
「あ、ここは魔術具の爆発に巻き込まれるので、悲鳴の部分にエックハルトの声もお願いできますか?」
「え? 巻き込まれるの?」
「はい、この手前にセリフがある三人とアナスタージウスは確実にラオブルートが投げた魔術具の爆発に巻き込まれますね」
その場面はweb版にはなく、閑話集のアナスタージウス視点を元にしている部分です。どういう流れになるのか説明します。
「普通にモブで良いと思ってた。他のキャラ、忘れそうだな」
当日に変更があると、チェック漏れしやすいんですよね。私もなるべく覚えておこうと思っていましたが、優秀な録音助手さんが指摘してくださったので、収録漏れはありませんでした。それぞれのキャラの新鮮な悲鳴をお楽しみください。
小林さんにはモブの騎士3もお手伝いしていただいて終了です。
「良いお年を」
○休憩
「森川さんが来るまで約30分の休憩です」
「はーい」
緊張した空気が一気に緩んで、ざわざわとし始めるコントロールルーム。
その中に鈴華さんの「あの、香月さん。良いですか?」という声が聞こえました。
「良いですよ。何ですか?」
「えーと、『このラノ』1位と殿堂入り、おめでとうございます」
スタジオの音が筒抜けになるのと同じで、私と鈴華さんの会話もコントロールルームには筒抜けなのでスタッフさんがざわっとしました。
「え? 今頃?」
「お祝いイラスト、描いてましたよね?」
「う、直接言っておきたかったので……」
……鈴華さん、お祝いイラストまで描いてくれたのに……いい人過ぎる。
「あと、殿堂入りって何ですか? おめでたいことなのはわかるのですが、どういう状態になったら殿堂入りするのかとか、殿堂入りしたらどうなるのかとか、わからなくて……」
「三年連続で1位だったら殿堂入りって以前『このラノ』のインタビューを受けた時に聞いた記憶があります。『本好き』は連続ではないけれど、1位が3回目だし、もう何年も5位以内に居続けたので殿堂入りになったんじゃないかな、多分」
『このラノ』はできるだけ色々な作品を紹介するためのランキングなので、殿堂入りは人気のある作品がずっと上位を独占するのを防ぐための措置のようです。殿堂入りすると、次からは投票対象から外されます。
「あと、エックハルトのif話! 酷すぎません!?」
「あ、あぁ……。まぁ、うん。でも、仕方ないよ。それに所詮if話だし、実際はそうならなかったから良いかなって」
「ifって言ったら何でも許されると思ったら大間違いですよ!」
どうやら鈴華さんには許されないらしい。(笑)
実はエックハルト、大好き?
「でも、エックハルトはまだ良いんですよ。自分の思うままに突き進むから。ヴィルフリートこそif話では死にまくるんです。巻き込まれて殺されることが多いし、ヴィルフリートの方が酷くて可哀想」
あのifでも死ぬし、こうなったら廃嫡の末に暗殺だし、ヴィルフリートはかなり危険な立場にいるんですよね。それなのに、明るく意気揚々と地雷原に突っ込んでいくようなことをするので作者としてもめちゃくちゃ困るキャラ。プロットに反して勝手に暴走しようとするキャラという意味ではヴィルフリートとハルトムートが困ったちゃんですね。プロットの流れ上に軟着陸させるために何度道を逸れたことか……。
「……ヴィルフリート、生きてて良かった」
「うん。よかった」
機械越しに行われる私達の会話の裏側ではTOブックスの他作品のドラマCDについて唐突に打ち合わせが始まっていました。
スケジュールの確認をして「聞いてないよ! これの二カ月前にこれをするの!?」「あの作品の収録がその後になかった!?」「日程的にはここしかないけど、うわぁ……」と色々な人から悲鳴が上がるのを聞きながら、私は「頑張れ~」とこっそり応援。
どの作品でもスタッフさんは大変そうです。
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