現在の仕事内容
― 普段、どのような作品、レーベル(会社)作りを目指していますか?
Y.S:一番大事なのは毎月の編成を管理すること。何月に何が出るか、何冊出すか現場と調整します。
あとは部員たちの管理ですね。書籍編集は現在7名いますが、それぞれが出してきた企画を判断する。一緒に作家様へ会いに行ったりもするし、売れる方法もできるだけ一緒に考える。作品が無事に完成するように制作過程や進行のチェックも大事。未経験の人も多いから、僕自ら教えるってことも少なくない。
TOブックスは小説を軸にしながらコミカライズ企画を増やしているので、コミックス編集グループとの連動も多い。毎週すごい量のメールが飛び交っています(笑)
作家様などクリエイターの皆様へご迷惑をおかけしないように徹底管理するのが大事ですね。
S.T:メディアミックスで一番やりやすいのがコミカライズ。
コミックス編集グループは現状、主に書籍編集グループが作った原作をコミカライズすることが多いです。主な役割はY.Sさんが言ってくれたことと大差ないですね。どの連載も目を通して、事故なく、そしてなるべく多くのお客さんに見て頂いて、満足していただけるようにいつも考えていますね。
グループ内には11名の編集者がいるけど、まだ新人も多い。「早く結果を出せるように」という部分も意識しています。
Y.S:コミックス編集グループは特に人も連載も増えましたよね。
S.T:ですね。連載は現状95タイトルあります。終わったものが10本弱。この春分がだいたい7〜8タイトル。昨年と比べるとほぼ倍。春でほぼ100タイトルを超えてくるでしょうね。
Y.S:S.Tさんが言うと簡単に聞こえるんだけど、実はけっこう大変なことだからね!?(笑)
ただ、ここまでコミックス企画が増えてきたのはひとえにノベルとコミックスの編集部の仲が悪くない、ってことも要因に挙げられるかなぁ。部署間の連携が密にとれているのが特徴的ですよね。
S.T:多分、僕とY.Sさんの仲悪くなったら崩壊しますね(笑)。
Y.S:ですよね(笑)。僕らの間で最初にこういうビジョンでいきましょうねって共有ができているから現場も動けるんだと思うんですが、原作者様に小説の出版をご相談してから、コミカライズの連載へ進めるスピードが早い。現場の編集者たちが常に出版だけにとどまらない作品展開を意識しているので、スムーズに進行していると思います。どの作品も帯が豪華(笑)。
S.T:そういう意味ではうちの編集者は従来の編集者と比べて変わっているんですかね?
Y.S:変わっているというより、今の時代の要請に合わせて動けているんじゃないでしょうか。
編集者のあり方が、従来の本だけを作っていれば良い職人的なものから、一つの作品を様々な形に展開するプロデューサー的なものへと変わってきている。営業的な側面を意識する、目に見えない努力を現場はとてもしていると思います。
S.T:書籍編集グループは実際にそのような教育を行なっているんですか?
Y.S:そうですね。かなり意識的に伝えていますね。本を作るだけの編集者にとどまることなく、作品の出口戦略――どういう形でお客さまへ届けるか、コミカライズだったり、グッズだったり、アニメだったりと出口をイメージしながら本作りをしていこうという点ですね。職人的に本を作るだけの人はうちの会社だとかなりきついんじゃないですかね。本を作っていれば許されるわけではないので。
というのも、TOブックスでは職人的な部分は部署を分けて、制作部隊へと委譲しているじゃないですか?
S.T:そうですね。新しい人も増えてきますしね。
Y.S:未経験で入社した人でも編集者としてやっていけているのはその辺りも一因じゃないかな。DTP、校正、電子書籍化、デザイン制作チームが社内にあって循環しているのは珍しいと思います。もちろん、装丁など外の会社の方にお願いする部分もあるんですが、外注比率が低い。
本作りの内製化を徹底したから、例えばコロナ禍のような厳しい状況にあっても、安定した刊行が可能になっている。刊行点数を増やせたのは本を作る組織化が大きかったからだと思います。
愚直──愚かにまっすぐに。
― 編集者の資質とは?どんな人に来て欲しいですか?
S.T:コミックス編集グループは2つあります。1つは素直な子!キャリアはなくていいんです。むしろ下手に他社さんの考えに染まってしまっていると今のうちのやり方やスピードに馴染めないかもしれないので、柔軟に取り組める方じゃないと難しい面はありますね。
2つめはコミュニケーション能力かな。調子に乗ってしゃべくるだけではもちろんダメですし、自己主張できない人も当然だめ。作家さんをはじめ、いろんな方と触れ合う職業なので、本だけ作れればいいという人は難しいかなと思います。
Y.S:へーそうなんだ。書籍編集グループの基準とは全然違う(笑)。
S.T:そうなんです?(笑)。
Y.S:こっちは、めちゃくちゃ小説が好きか否かを大事にしてるんです。面接で必ず聞くのが月に何冊読んでるか。だいたいの人がこの物量をクリアできない。あとは地味な生活に耐えられる人か(笑)。
だって、黙々と先生の原稿を読んで、チェックして、今の人気作品を読んで、映画を観て……って繰り返しです。超地味で地道。そんな生活に耐えられるのかを大事に見ているかも。
S.T:地味ですよねー(笑)。
Y.S:99%地味ですよ!(笑)。よくS.Tさんと話しているキーワードは「愚直」。愚かなほどまっすぐに歩いていけるか。一足飛びに何かやろうとするのではなく、まるで田植えのようにただただ一つでも多くの作品を先生と一緒になって世の中に届けていこうとしか考えていない。だから、そもそも僕ら2人が超地味(笑)。
S.T:そうそう、どんだけ地味にやってると思うんだよって話ですよね(笑)。派手さのかけらもないよ!(笑)。
Y.S:うちの編集者たちって、コロナ禍でステイホームとなっても、心が弱って仕事が遅くなったりしなかったじゃないですか?それは仕事じゃなくてもステイホームだから(笑)。
ここまで愚直にやってきたのが今の会社の一つのポイントですよね。TOブックスに色があるとしたらそれだけじゃないかな。特別なことはやっていない。誰でも想像つくけど、しんどいから絶対にやらないようなことも地道に全部やってきた気がします。派手な社員があんまりいないもの。
S.T:見た目だけは派手な子もいますけどね(笑)。
Y.S:あー誰のことかわかった(笑)。でも、見た目だけでしょ? 結局、内面やその日々はすごく真面目で地味に見えるなぁ。
S.T:真面目だと思いますよ。感覚的に編集者全員、お休みがないですよね。それは先生と一緒に動くから。土日にメールが超来るし、作品作りって平日だからアイデアが出るというわけではない。休んではいるんだけど、土日に頭を使うことも多い。作家さんがそもそも夜だったり、土日メインで活動する人もさまざまです。休みに区切りがなくなりがちなのが意外と辛い、大変なこと。
Y.S:それでもやりたいからやる人が残っていますよね。というか、クリエイターと一緒になって作ろうって意識がとても強い会社なんでしょうね。漫画家さんや作家さんを大事にするし、彼らがやりたいことをできる限り叶えてあげたいという思いが強い。
僕たちは裏方ですからね。作家さんがスターになって欲しいんですよ。
S.T:これもうちならではですが、編集者にスター欲求がないですよね。
Y.S:そうそう、SNSだって個人的に発信することことはないし、このインタビューだって顔を出す気がない(笑)。
S.T:たしかに(笑)。
Y.S:強制していないんですけどね。そういえば、とある面接で「そんな辛い日々で脚光も当たらない、じゃあ何のためにやってるんですか?」と言われて面食らったことがあります。
S.T:ほう(笑)。
Y.S:そんなことをネガティヴに考えたこともなくて。全て作家様のためとしか思ってない。そして、もっと言えばどっちが上とか下とかもない。大事なのは先生が伝える物語ですからね。
S.T:間違いないですね。