STORY01

ノベル×コミックス
編集長対談

求む──『本好き』!
書籍編集グループ、コミックス編集グループそれぞれの編集長に、
日々の業務内容やこれからの展望、編集者の資質について語ってもらいました。

始まりは全て『本好き』だった。

― その中で『本好きの下剋上』が生まれた経緯を教えてください。
作品コンセプト、メディアミックス展開、グッズなど。また、TVアニメ3期を控えた今、どのようなことを考えていますか?

Y.S:『本好き』があってうちの今があるといっても過言じゃないです。
それは売上的な意味でもあるし、全ての作品作りのベースになっているから。

S.T:初めてのコミカライズも『本好き』ですね。

Y.S:そう。メディアミックスのやり方も含めて、全て『本好き』を踏襲していますよ。いろんな作品の雛形になったのは間違いない。始まりは全部「本好き」でしたよ。
おかげでほかの作品もしっかりコミカライズできたし、支持も得られて、同じように波及していった。コミカライズだけじゃない。同時にグッズを作ったり、オンラインストアとの連動もそう。ドラマCDやアニメも同じことが言える。

S.T:僕の入社前ですが、元々どのように立ち上がったんですか?

Y.S:TOブックスでは元々、『魔術士オーフェンはぐれ旅』が人気だったので、同じサイズの単行本を刊行していたんです。その中で「小説家になろう」関連の作品にもチャレンジしてみようとなって、『本好き』や香月先生と出会えた。縁としか言いようがないですね。

S.T:何か作品のピックアップには基準があるんですか?

Y.S:当初は僕一人が中心に作っていたこともあって明確でした。それは「ライトノベル」というジャンルに囚われないこと。つまり、ライトノベルを好きなお客様だけが読むような作品はやらなかった。ジャンルや性別、年代も問わず、いろんなお客様に読んで欲しい、読める作品を基準にしていました。『おかしな転生』や『淡海乃海 水面が揺れる時』などもそうですよね。
例えば、当時普段ライトノベルを読まない方にとっては、表紙が刺激的すぎる作品が多かった。それでは小説が好きなお客様が手に取れない。でも「小説家になろう」という場に投稿されている作品の中には、小説的に優れているエンターテイメント作品がたくさんあった。だから、地道に作品を読んではポイントが低くても、書籍化をしていったんです。その中でも『本好き』は突出していました。
今は編集者が増えたので、彼らの基準で好きに作ればいいとしています。バラエティ豊かな作品群になった気がします。

S.T:なるほど、それはコミカライズ原作を選ぶ基準にも通ずるところがあります。制作は順調だったんですか?

Y.S:象徴的なのはイラストのイメージ感がまったく一緒だったことですかね。椎名先生にお願いしたいと最初から僕は思っていて、香月先生へ提案したらまさかの「私もです」ってなって(笑)。椎名さん一択です(笑)。
僕は他の作品でも著者さんとイメージがズレることはあまりないんですが、その中でもここまでお互いのイメージがクリアだったことはそう多くないかな。装丁もそうでしたね。
『本好き』は古い本をモチーフにしたデザイン方向だったんですが、タイトルを派手にロゴ化することよりも読みやすさを大事にすることだったり、全体的な飾りや彩りのトーンの好みが一致してましたね。そんな立ち上げから始まって気づけば30冊まで積み重ねてきた感じです。(※2022年4月現在)
逆にコミックスの立ち上げってどんな感じでしたっけ?

S.T:コミカライズの立ち上げは本当に一からですよね。当時まだTOブックスの中にコミックスの部署もなくて、外部の編集プロダクションに鈴華先生をご紹介してもらって始まりました。ついで2部、3部、4部とそれぞれの部ごとにスタートして今に至ります。同じ作品とはいえど、実質1〜4の4作品なので、関係者も情報量もすごいです(笑)。
なによりも全てチェックする香月先生が本当にすごい。今でも全てに目を通していますから。

Y.S:それは僕も思います。香月先生がいなければこんなに展開はできなかったと思う。ひたすら地道にやってきた。漫画担当の鈴華先生、波野先生、勝木先生も一緒ですね。もちろん椎名先生もすごい。ずっと定期的にストイックに描いてくれている。
それだけ関係者の負担が多い中で、当初は僕がメインで管理していたんですが、コミックスについては2部3部4部と全てS.Tさんへ集約していくことができた。これが本当にありがたい(笑)。その分、僕は原作やアニメ関連他の展開に集中できました。

S.T:意外と関係者の数は少ないんですよね。漫画は全て見てもらっていましたが、僕とY.S.さん、香月先生、漫画家さんたち。基本的にはこれだけ。世界観が緻密かつ大事な作品なので人員を増やしたいという本音もありますが、整合性をとるという意味では増やすわけにもいかなかった。人が増えるほど共有がむずかしい。スピードも遅くなってしまう。なので、人数は増やせないけど、クオリティは保ちましょうね、という話です(笑)。
グッズの展開はどんなふうにプランニングされているんですか?

Y.S:あくまで作品が中心。お客様がいろんな形で作品を楽しめるようにするために増やしていっただけですね。
香月先生と打ち合わせをする中で、こういうのあったら面白いよね、って話しながら作っていきました。もう何屋かわからないくらい作りましたね(笑)。今ではグッズ制作が専門の部署があるので、彼らが同じように作品ごとの企画を立案しています。『本好き』で経験したことによって、放射線状にさまざまな部署が生まれていきましたね。結果的に商品開発や音響周りを担当してくれている企画製作グループが拡大していきました。

編集スタイルは本好きの下剋上

― この数年でTOブックス自体はどれくらい変わったと思いますか?

Y.S:人数は3倍くらいになった。最初は全て自分一人だっただけに大きく変わった(笑)。

S.T:コミックスも大きく変わりました。8月から9人ですね。しかもうちの会社若い人が多いですよね?

Y.S:平均年齢20代後半くらいじゃない?編集長だけおっさん(笑)。他社さんと比べてもめちゃくちゃ若いと思う。これからの出版業界を考えた時に経験が少なくてもいいから、なるべく若い力を育てていこう、って舵を切りましたね。初期はほんとグダグダでした(笑)。でも、グダグダの中に試行錯誤経験値や知識がいっぱいあって。上の先輩たちが作ったものは次世代が引き継いでいる。

S.T:しかも、若いからかアグレッシブですよね。企画を出すことに前向きというか嬉しそう。コミックスは僕対現場の直のやりとりなんで、1対1で互いに向きあっています。毎日メンバーと電話でやりとりしていますね。(笑)。週一の会議もあり、常に誰かしらと議論しているイメージです。

Y.S:コミック編集部はかなりシステマティックになってきた。まだ4年も経ってないのに。

S.T:ノベルと決定的に違うのは、漫画は0から追いかけて作っているところでしょうか。
ところで、一人前の編集者ってなんだと思います?

Y.S:よく僕が現場に言っているのは、自分が書いて欲しい作家と一緒に作品を形にできることかな。
そのためには2つ必要。ひとつは本にするためのスキル。2つめは実績。新人がいきなり著名な先生に書いてください!って言ってもできるわけないからね。今まで君は何をつくってきたの?ってなるじゃないですか?
つまり、作ってきた1冊1冊がキャリアであり、名刺がわりになるんです。

S.T:業界が長くなると、会社名よりも『〇〇』の誰々さんって呼ばれるようになってたりしますよね。

Y.S:そう、何だかんだで、ヒット作品が大事。編集長が作ろうが新卒の子が作ろうが数字は嘘をつかない。そこが面白いところでもあり、しんどいところ。やっぱりうちの編集スタイルは「本好き」の「下剋上」です(笑)。
編集者のキャリアアップって、方法が明確すぎます。やっぱり編集者にとっては、好きなものを作って、それを読者が読んでくれるのが一番嬉しいんじゃないかなと思う。そこへ到達できるように、日々頑張るしかない。

S.T:やっぱり地味ですね(笑)。売れてもまた同じ日々が繰り返されるのでゴールというわけでもないし。

Y.S:そうそう。仮に『本好き』シリーズが終わった後って、また1から別の作品を作るしかないからね(笑)。ほんと地道。

S.T:普段、作品についての会議などはあるのでしょうか? どんなことを話しているか、エピソードなどあれば教えてください。コミックスは進行確認の会議だけなので。

Y.S:書籍編集は進行会議のほかに、隔週で企画会議もありますね。新しい企画の相談場所でもありますが、世の中の流行りを情報共有する場でもあります。この前の会議ではこんなに日々が忙しい中、各々が一冊好きな本を持ち寄って紹介するってのもやりましたね。編集者は「この本が面白いから買ってね」っておすすめする職業でもあるので、意外と地力に繋がっていると思いますよ。話下手な人もいい練習になります(笑)。

S.T:独特だなぁ(笑)。

Y.S:最近観た映画の話とかもしていますね。物語を愛する力を育もうということです(笑)。

ものづくりに上下もなければ貴賎もなし。

― これからのTOブックスでどんな人を求めているかなど、社員についても触れてください。

S.T:目指す所は明確。世界です。まだまだ人は少ないのでいろんな人を増やしていきたいです!

Y.S:同意見です。TOブックスが成長してきた理由の一つは、やりたいことがたくさんあったから。会社の規模が上がらないと単に出来ることが広がらないですよね。ひとりで本もグッズもアニメも作るのは限界がある(笑)。もっといろんなことをしたいし、もっと自分たちでやりたいことをできるようにしていく。そのための環境を整えているに過ぎないんです。
いや〜もっともっと届けたいって思います!

S.T:ですね。人の力を借りる限りできることが限られますしね。やりたいことが多すぎるってのも問題ですね(笑)。その判断基準も物語が全てなんですが。

Y.S:TOブックスの会社が珍しい点に、未経験でも編集者に応募可能というのもありますね。業界的には中途採用は経験者に限られるケースが多い。未経験では受けることすらままならないものです。
でもうちは経験者が必ずしも良い本、売れる本を作れるとは考えていません。ものづくりに上下はないし、貴賤もなし。編集者になりたい、作りたい作品がある人はぜひ、受けにきて欲しいですね。

※インタビューは2022年4月現在の情報です。