STORY05

転生令嬢は精霊に愛されて最強です……
だけど普通に恋したい!

新人編集が即重版!ヒットを決めた秘訣とは?
書籍担当編集のお二人に書籍化の経緯や本作り、編集者自身について教えてもらいました。

転生令嬢は精霊に愛されて最強です……だけど普通に恋したい!

2019年TOブックスより書籍化。現在、原作小説1〜6巻発売中で、コミカライズも連載中の人気シリーズ。天真爛漫な令嬢ディアドラが、精霊王や皇太子から愛されながらフラグ全折りで世界を革命する恋愛ファンタジー。
原作小説6巻刊行と併せてシリーズ初のアクリルキーホルダーも発売し、話題沸騰中の作品です。

― 転生令嬢とは?

M.F:読者の男女比率はどれくらいなんですか?

H.H:9:1で女性でしょうね。

M.F:男性から見てもイラストはいいなという共通理解はあると思いますが、女性もののイメージが強いですからね。ディアドラはすごく愛されているのにふらふらしないところが良い。本命が一人いて一途。ちやほやのされかたに嫌味がない。

H.H:いいですよねー。なんといってもディアドラが可愛い。

M.F:いつもそれ言ってますよね?(笑)。H.Hさんが編集者デビューして初めての作品だから愛着もすごそう。

H.H:そうですね。右も左もわからないまま、M.Fさんをはじめ、先輩がたに教えてもらいながらなんとか著者の風間さんと作り上げることができました。

M.F:デビュー作品が即重版ってすごい。なかなかないですよ。

H.H:ありがとうございます。実は売れたら編集長に「好きなもの買ってあげるよ」って言われまして。

M.F:買ってもらったんです?

H.H:はい!GUCCIの靴を。せっかくなら自分の給料じゃ買えないものをねだれって。今も大切な宝物です……!

M.F:すごい。いいなぁ。私、何ももらってないです(笑)。

H.H:すみません(笑)。

M.F:書籍化は何かきっかけとかがあったんですか?

H.H:きっかけももちろんディアドラで、「小説家になろう」のサイト上で作品を読んで「ディア最高!もっと読みたい!」ってなりました。

M.F:愛が深い。

H.H:そうなんです。それで、じゃあ書籍化作業を進めていこうとなった際に、イラストレーターの選定に難航してしまったんですよね。そこで先輩編集のM.Fさんと一緒にやることになって、イラストレーターの藤小豆さんをご紹介いただきました。

M.F:かなりタイミングが良かったです。藤小豆さんの本職は漫画家さんなんですが、ライトノベルのお仕事も手がけられていていたので、ずっとお仕事をご一緒したく思っていました。それでお声がけをして、ちょうど良きお返事をもらったところだったんです。元々は自分のタイトルで使いたかったんですけどね。可愛い(?)後輩のためにと。

H.H:ありがとうございます(笑)。実際、重版出来たのも、M.Fさんとタッグを組めたことがとても大きいです。最初はディアドラの魅力をなかなか書き起こすことができなかったんです。
それでも制作過程の中で、「もっと魅力的に見せられるよ!」ってM.Fさんから何度も教えてもらって。ようやく辿り着いた答えが今の書籍版ですね。あらすじや帯のような文章でもそうですし、イラストの見せ方についてもそうです。

M.F:新シリーズの立ち上げですからね。アイドルをプロデュースするのと一緒だと思っています。どうすれば、作中のディアドラをパッケージでも魅力的に見せられるのかを考えていました。最終的に決めるのはH.Hさんなので、まずはH.Hさんの趣向を知ることから始めました。好きなタイプはディアドラみたいな元気系だとか、ほかに好きな女の子のイラストをひたすら一緒に見たりとか、好きなポーズを研究したりだとか(笑)。

H.H:編集者になって実感したのは、自分のイメージを形にするのは大変だということ。元々ディアドラの天真爛漫で可愛くてみんなに愛されてるところが楽しい要素だなと思って企画しました。他社さんでも同じ路線で売れている作品もあって、同じ見せ方が出来たらなと思っていました。
ただ、いざ実際に自分が作るとなるとなかなか思うような形にできなくて。こうも難しいんだなってびっくりです。

M.F:女性主人公は今、人気ですよね。市場を見て作ろうとしているのは、とても編集者っぽい考え方だと思います。

H.H:単にティアドラかわいいと思ったのもポイントですけどね(笑)。

M.F:ちゃんと好みも入ってたんですね。H.Hさんは男性ですが、女性向けの企画も多いですよね。男性向けの企画も同じ選び方なんですか?

H.H:大きくは変わらないかもしれません。ヒロインが可愛いかつ、同世代の感覚を重視していますね。

M.F:若い感性は大事ですね。

H.H:僕に足りない経験値や知識をM.Fさんに補ってもらったなと思っています。

M.F:TOブックスは一緒に編集がタッグを組んで作品を作ることも多いですよね。企画や情報を分かち合うこともしばしば。編集長自らがその姿勢を見せてくれているのもあります。一般的に編集者は孤高のイメージがあると思うので、他の会社にはない風潮だと思います。

H.H:編集部内のコミュニケーションも比較的多いですよね。

M.F:そうですよね。今はコロナ禍なので難しいですが、以前はよくみんなで飲みに行ったりしてましたよね。今は週一のリモート会議のみですが、話題は絶えない。

H.H:気の良い先輩が多いです。M.Fさんとの作品作りも、和やかであまり怒られた記憶はないですね。立ち上げ時のコントロール程度だったかもです。というか、指摘ですね。続巻で僕がブレていたら違うでしょと教えてくれます。

M.F:H.Hさんはかなり優秀なんですよ。本を作る過程はかなり大変。地道に原稿を読んだり、発注書を作ったり、練り上げることばかりなんです。ようやく刊行に辿り着いて売れても、今後は定期刊行をしていく。ここまでできる人はほぼいない。H.Hさんはそれがすぐできていた。加えて視点を修正してあげるくらいの指摘で済む程度にはアイデア力もあって一緒に作っていける力がありました。
継続力も大事です。どうしても途中で飽きたり、モチベーションが落ちてしまう。作家の力がないと原稿も作れないので編集者にやる気があっても作り上げられないこともある。『転生令嬢』も年3冊くらいのペースですよね。
何か一つでも欠けたら完成出来ないのに、ここまでまっすぐ来ている例は少ない。

H.H:1年目は年4冊。今年が2年目です。

M.F:著者もイラストレーターも大変ですからね。忙しい彼らをコントロールしないといけない。人知れぬ努力がいっぱいありますね。

H.H:売れるクリエイターほど、編集に求められる力も大きいとは感じます。世界観の構築が凄まじいので、彼らのレベルに付いていかないといけないから。『転生令嬢』の風間さんもそこは同じ。毎巻、風間さんのイメージをヒアリングすることから始まる。原稿の完成度が高い分、イラスト周りのやりとりが多いですね。

M.F:作家さんへは電話が多い?

H.H:今はそうですが、作家さんに合わせていますね。メールが嫌いな方は電話、電話が嫌いな方へはメールというだけですね。

M.F:私は電話、対面の打ち合わせともに、約束しているとき以外は一切音声での打ち合わせはないですね。
その分、ほとんどがメールですね。毎日メールの嵐です。情報を残しておくことが大切かなと。電話だとメモから漏れると忘れてしまうので。いずれにせよ、コミュニケーションや信頼関係が大事ですね。

― 編集のお仕事とは

H.H:デザインを進めている段階で社内へも意見を募っていたんですが、当時から評判がかなり良かったです。
売れそう、って言ってもらえるとやっぱり嬉しいです。

M.F:そこでの評価がまず編集の腕の見せ所ですね。一般的に何をするお仕事ですか?と言われても答え難い。
名前が表に出ることもないし、本書いてるの?とか言われる(笑)

H.H:僕の編集のイメージは某作品のノリスケおじさんですね。

M.F:わかりますが、ノリスケおじさんとはまた違う時代になってきていません?

H.H:文芸はノリスケおじさんってイメージもあるかもしれません。ラノベや漫画はまた別ですね。

M.F:全然違う仕事ですよね。書籍プロデューサーの方が伝わりやすいかも。作品をどうやって売り出して、展開するかが根本ですね。

H.H:一番は作品と読者を繋ぐこと。同時に著者と読者を繋げるお仕事ですよね。
読者が何を求めるかをリサーチして、それを分かりやすくして届けるのが編集。入社当時、編集長に言われたのが「編集者は作品は作らなくていい」ということ。ヒットさせるのは読者、それを繋ぐのが編集だと意識してやっています。常に読者に向いてなければいけない。

M.F:作っていると目先に向き合っている作家さんのためとかイラストレーターのためと考えちゃうんですが、その先にいるのは読者ですよね。
私は良い作品や作家は勝手に生まれてくるものだと思っていて、すごい才能同士が出会うとシナジーが生まれる。そんな才能を集めて編むのが編集だと考えています。いつまでも自分が主役になることはないので、自分が目立ちたい、という人には向いていないと思います。まさに永遠の中間管理職です。自己主張しても、本質の読者からズレていってしまう。

※インタビューは2022年4月現在の情報です。