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神坂 一(かんざか・はじめ)

第1回ファンタジア長編小説大賞にて準入選を受賞した『スレイヤーズ』(富士見書房)でデビュー。1989年に第一作が刊行された同シリーズは大ヒットを記録し、ロングセラーとなる。
以来、ライトノベルを中心に数多くの作品を刊行。無類の妖怪好きとして知られ、作家活動25周年を記念した本作で初めて「妖怪もの」を書き下ろした。

記念すべき第一回は神坂 一先生がご登場!今年、作家活動25周年を迎えた神坂先生が初めて、「あとがきなし」で書き下ろした(?)妖怪×青春コメディー『妖怪半分 学生半分』の裏側をたっぷり語って頂きました!

神坂 (録音用に置かれたiPhoneをしげしげと眺めながら)標準機能で搭載されてるんですか、これ!? すげー! 何だ、この人類文明の進みっぷりは……

編集長(笑)。まずは、作家活動25周年ということで、おめでとうございます。

神坂 ありがとうございます。

編集長 もともと、『妖怪半分 学生半分』で25周年記念作品を目指していたわけではないですよね?

神坂 えぇ。何のかんのと話し合っているうちに、どちらからともなく、気がついたという(笑)。「あれ、25周年?」って。

編集長 執筆の途中で気付いたんでしたっけ?

神坂 いろいろ話している時に、『スレイヤーズ』のイラスト、あらいずみさんからのご指摘で気がつきつつ、ほぼ第一稿が完成した頃に、「そういえば、『スレイヤーズ』が雑誌に掲載されたのはいつだっけ?」という話になり、ちょうど、25年前の8月だったという(※本作の刊行は2014年9月)。

編集長 奇しくも、この作品が25周年記念作品になったことに、何か感想はありますか?

神坂 まぁ、そもそも自分が25年続いていることがびっくりなんで(笑)

編集長 (笑)。偶然が重なっただけとはいえ、神坂さんの今までの作品では、こういった現代を舞台にした物語は少ないので、何か縁を感じますね。そもそも、昔から作品のイメージはあったのでしょうか?

神坂 そうですね、妖怪という存在は昔から好きで、心霊系の番組や実話怪談ものも好きでしたので、そっち方面に興味がなくはなかったんです。ただ、昔一回試しに書こうとしてみたことがあって、どうもうまくいかなくて。そんなこんなで時を経て、今に至ったわけです。
最初に考えたのが、「バトルはやらないようにしよう」と。打ち合わせでも共有してましたけど、執筆がラストに近づくにつれて、どんどん本当にバトルしなくていいだろうかと不安が募りました(笑)。

編集長 そうでしたね、僕も不安でした(笑)。だからこそ、すごいなぁと素直に思ったんです。バトルなく一冊を書き上げることを最初からご自身に課されていたので。

神坂 妖怪もので、普通にバトルすると、今までにあるのと変わらないじゃん、と。もちろん、相手が妖怪なのか、魔族なのか等はともかくとして、本質的に変わらないんじゃないかなぁって思ったんですね。
で、自分の妖怪好きを活かして、昔から認知されている様々な妖怪を出すなら、バトルはやめたほうがいい気がしたんです。

編集長 神坂さんの妖怪好きはファンの皆さんの間では有名でしたよね? だからこそ、僕も最初に「妖怪ものを書いて下さい!」とお願いしました。好きになるきっかけはあったのでしょうか?

神坂 多分、最初は『ゲゲゲの鬼太郎』だと思うんです。最古の記憶では、保育園の時に、『妖怪大戦争』って映画が大好きだったですし、お昼寝の時間用に掛け布団を持参するんですけど、その表に親父が絵を描いて、母親が刺繍をしてくれてまして、それが『ゲゲゲの鬼太郎』でした。

編集長 始まりは掛け布団(笑)

神坂 えぇ、その頃から私はこういう病だったんだなと(笑)。

編集長 幼少期から妖怪好きだったとすると、普通、作家になる時にそれを題材に小説を書いたり、どこかで執筆する機会があったりする気もするんですが。25年も引っ張ったのは何故ですか?

神坂 まぁ、私は妖怪好きっていうか、ある種のモンスター、クリーチャー好きなんですね。そういうところって、例えば『スレイヤーズ』の魔族に反映されてますよね。実際のところ、2巻『アトラスの魔道士』を書いていた時に、どうしても気分が乗らなくていろいろと考えた挙句、途中のバトルで変な犬のクリーチャーを出したら、一気に筆が進んだという(笑)。

編集長 確かに変な犬だ!(笑)。『スレイヤーズ』の魔族とかモンスターとかに、神坂さんの好みが色濃く出ていたわけですね。

神坂 妖怪、怪物、クリーチャー、怪獣等、ある種、「この世に現実には存在しない者たち」を同じカテゴリーでとらえていた気がします。
なので、本当にディープに妖怪を好きな方に比べたら、私なんて全然ですよ。それこそ、水木しげる先生の「境港妖怪検定」を受けたとしても、大した点数にならないでしょうねぇ。なんか、ふんわり好きって感じです。

編集長 ふんわり好き(笑)。今、水木先生のお話が出たところで、お伺いしたいんですが、神坂さんは水木しげるロードに、妖怪オブジェを3体も寄贈されてますよね? あれはどういったきっかけで?

神坂 あぁ、あれはですね、私、知り合いの作家さんで秋田何某さんという方がいらっしゃいまして(笑)。

編集長 秋田何某さん(笑)。うちも大変お世話になっております(笑)。

神坂 あのお方と電話でよく馬鹿話をするんですが、冗談で「神坂さん、この美少女フィギュア買いましょう」とか言ってくるんですね。多分、秋田さんはそれと同じノリだったと思うんですが、「境港で妖怪ブロンズ像を一体100万円で寄贈してますよ、ぜひやりましょう」と言われた時に、秋田さん、これは良いことを教えてくれたと思いまして。

編集長 (笑)

神坂 即座にチェックして、5体候補を挙げつつ、いや待て、5体は大人げないぞと。それで3体にしたんです(笑)

編集長 あの人、きっかけだったんだぁ。

神坂 ちょうど、募集のタイミングだったんで。どうやら、秋田さんは私が本気でやるとは思ってなかったみたいで、「あれはなかったことにしてください」と言ってますが、私は今でも秋田さんに感謝しています(笑)。

編集長 こういう大人がお金が持つとロクなことにならないですね(笑)。

編集長 今回の登場キャラクターについても伺いたいんですが、最初は稀綱もマキも結構年齢に幅がありましたよね? 中学生とか高校生とか。

神坂 主人公を高校生とかにして、狂言回しのマキを同級生にするか、子供にするかで悩んでいたんですが……まぁ、大学生のほうがフリータイムも多そうだし、一人暮らしとかも当たり前だし、高校生よりは大人寄りのほうが良いかなぁと。
でも、一番悩んだのは、マキですね。中高生、大学生なのかって散々揺れていて、何かのきっかけで、「子供」とハマった時に、大分、この物語が見えてきた気がします。
もしも、マキが高校生とかだと、稀綱との関係も微妙ですよね。

編集長 確かに、マキが子供になった時点で二人の恋愛関係は消えましたものね。

神坂 そんなことが起きたら危険すぎます(笑)。

編集長 マキは面白いですね、大好きです。

神坂 実を言いますと、近所の子供たちに懐かれたことがありまして、よく遊んだりしてたんですね。その頃の彼らの言動とかがヒントになってます。子供ってやっぱり、見てると面白いんです。

編集長 あと、所謂「日常モノ」って神坂さんにとっては初めてでは?

神坂 そうですね。そこは大変でしたね。さっきも言いましたけど、バトルなしでいざ終える段階になって、「はて、どうしよう?」と止まりました。スポーツものとかバトルものなら、強そうな相手と戦って決着を着ければ、何か終わった感じがしますよね。けど、これって……と(笑)。

編集長 僕も途中の段階で実はヒヤヒヤしてたんです。どうやって終えればいいんだろうって。毎週のサザエさんの話くらいで終わっちゃうと思っていたら、最後に天狗を選んだところがポイントかなと思いました。派手さが出るというか。

神坂 先にマキがいなくなるという流れを作ってから決めました。ここはある程度、知名度の高い妖怪で、内容にリンクするのは何かなと。内容さえ決まれば、妖怪のチョイスはすらっといきました。
全体的には、妖怪から内容が決まることもあったし、どちらのパターンもありました。例えば、ミイラが出てきますけど、あそこは最初「河童のミイラ」にしようとしてたんです。でも、復活後、ちゃぶ台を囲んでいる姿を想像したら、「荒川アンダーザブリッジ」じゃん、ダメだって、人魚のミイラにしたり(笑)

編集長 今回は神坂さんの新しい系統の作品ということで、多くのファンの方々も喜ばれています。早くも重版が決まったで、好評です。ファンレターも届いたので持ってきました。

神坂 おぉ、ありがたい限りです。

編集長 今後のご予定は?

神坂 この作品の続きも何とかやりたいとは思ってますね。もちろん、まだ内容も決まってないんですが、とりあえず、方向性としては「平和に暮らす稀綱たちの前に、謎の敵が!その時、稀綱の真の力が覚醒する!」という展開だけは止めようと(笑)。

編集長 (笑)。他社さんでの企画もいくつか決まっているようですし、これはますます目指せ30周年というというところですね。

神坂 がんばらなきゃ。

編集長 しかし、久々のインタビューですよね。今回は「あとがき」もなかったですし。

神坂 実際の話、この内容でいつもの調子であとがき書いたら、いろいろ台無しだと思ってました(笑)。

編集長 では最後にファンの皆様へ一言お願いできれば。

神坂 えーと、まぁ、最近は大分書くペースも落ちてきたわけですけれども、地道にいろいろお届けしたいと思っておりますので、気長にお待ち頂ければ幸いです。

編集長 本日はありがとうございました。

(2014年10月某日/大阪某所にて)