東京都出身。上智大学文学部卒業。本シリーズが初の小説作品。ラジオドラマ、ゲームシナリオ、マンガ原案などの幅広い執筆活動を行っている。
編集長 沢木さんってものすごい作家向きですよね。
沢木 そうですか!?
編集長 僕もこれまでに多くの新人作家と作品を作って来たんですが、作家志望の方々って、たいてい日々の忙しさの中で作品作りから離れていっちゃうんです。けど、沢木さんはブレずに書き続けるじゃないですか。これって、簡単そうで、すごく難しい。どうしてそんな風にできるんでしょう?
沢木 うーん。きっと昔から「作家になる」と思ってたからじゃないでしょうか。小学生くらいからかなぁ。
編集長 小学生!?
沢木 作文とか書くのが大好きだったんです。その頃から、書く仕事に就けたらなぁと思っていました。中学の頃になると、新選組が大好きで時代小説にハマって、小説って本当にすごいと実感しました。で、絶対に作家になると決めて大学に行ったんですが、ある日、「このままじゃなれない」と気づいたんです。
編集長 えっ!?
沢木 挫折じゃないんですが、就活している時に、私って何にも考えてないなと気づきまして……。そもそも大学に行ってからはクラシックギターのサークルに所属していて、忙しかったせいもあって全く執筆をしていなかったんです。なのに、就職活動の面接では「小説家になりたい」とか言っちゃって(苦笑)。一般企業なのに。
編集長 受けに来るなって感じですね(笑)
沢木 で、ようやく気づいたんです。これは作家になれないと。だけど面接では「作家になりたい」と言ってしまうので、このままじゃ何者にもなれないと焦りまして、そこから火が付きました。もはや選択肢が作家になる一択だったんです。
編集長 しかし、書いてないし、なろうも何も、なれる根拠ゼロですよね?(笑)
沢木 はい……。
編集長 なのに「なる」と決めちゃった勘違いが素敵です。これ、作家になる条件かもしれません。何の根拠もなく、「なれる」と思っちゃう部分。
沢木 不思議ですよねぇ。
編集長 その後、賞などには応募されていたと伺いましたが、ご縁があって、一緒に作品作りを始めた時、何故「一曲処方します。」の企画を考えたんですか?
沢木 原型になる話を脚本学校の課題で書いていたんです。長閑先生の元になるキャラクターと「人からメロディが聴こえてきて、それが感情とリンクしている」という設定がありました。
その後、柴田さんから「単なるメロディではなく、それが既存の楽曲で、その曲にまつわる歴史的な背景などを紐解いていくと面白いのでは?」と言われまして、それだ! となりました。
編集長 言いましたっけ?
沢木 忘れてる!
編集長 覚えてない……沢木さんのすげーアイデアと思ってました……。
沢木 本当ですか?
編集長 いい編集者だ(笑)。
沢木 (笑)
編集長 僕も音楽が大好きなので、「音楽を文章で読む面白さ」を悩んで、そんな提案をしたんだと思います。
沢木 音楽の雑学的な部分を掘り下げることで、元々考えていた脚本としての『一曲処方します』を、小説としての面白さに昇華出来たような気がします。
編集長 長閑のキャラクターはどう出てきたんでしょう?
沢木 最初は「印象に残らない特徴のない人」という設定でした。
編集長 困った主人公ですね(笑)。
沢木 そうしたら、長閑についても柴田さんから「キャラクターが弱い」と指摘されまして。
編集長 ただ、文章になっていないだけで、色々聞いていくと、沢木さんの中に「長閑春彦」のクリアなイメージがあった気がします。なので、こちらがアイデアを出した印象がないんですよね。ブレないんです。2巻では相当に長閑を深堀りしましたね。
沢木 掘りましたねぇ。
編集長 制作途中でメールのやりとりをした時に、きっと沢木さんは長閑の気持ちに寄り添いすぎていたからか、「あさりの砂抜きをするのも悲しい」って言ってました(笑)。
沢木 料理の前は生きてたんですね。それをお湯の中に投じるのが切なくて……。
編集長 長閑っぽい(笑)。
沢木 2巻では初めて長閑視点で描いているパートもありますし、もう一度、彼のバックボーンやキャラクター像を詰めました。
編集長 デビューしてから何か変わったことはありますか?
沢木 それがほとんどないんです。日常の延長線上に執筆があって、書店に行くと自分の本が並んでいてという。
編集長 まさにBorn to be Author! 普通はもう少し浮つきますよ。
沢木 もちろん、感慨深いし、嬉しいんですよ。けどやっぱり、一番心が動くのは書いている最中なんです。なので、「(デビューできて)すごいね」と言われても、どうもピンと来ないというか……。一番嬉しかったのは、ある知り合いのライターさんから「これで次があるね」と仰って頂けたことなんです。ようやくスタート地点に立てて、未来に向かっていけるなって。
編集長 本当に沢木さんって自分の軸が強くありますね。出会った頃から、とてもマイルドで優しい空気感が出ているのに、まさかこんなに頑固とは。もちろん、良い意味でです。
沢木 昔は気にしていたんですけど……。
編集長 やっぱり、作家向きだなぁ。それでは最後に読者の方々に一言頂ければと思います。
沢木 たった一人でもいいので、ずっと大切に思ってもらえるような物語を書いていきたいと思っています。作品を読んで頂いて、少しでも優しい気持ちになって頂けたら嬉しいです。
編集長 本日はどうもありがとうございました。
(2015年8月某日/都内某所にて)